公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
免疫機構の司令塔であるT細胞は、外来抗原だけでなく「自己(セルフ)」の異常から生じる腫瘍抗原や変異タンパク質などの「異常な自己(ネオセルフ)」を認識・排除することで体の恒常性維持を担う。こうしたT細胞の適切な識別能は、主として胸腺における「正負の選択」と呼ばれる仕組みによって決定される。T細胞がT細胞受容体(TCR)を介して抗原を認識して抗原を認識する親和性により正負の選択が実行されるが、抗原とTCR間の親和性の強弱が、T細胞に生と死という正反対のアウトプットを引き起こす「強度特異的なシグナル伝達と運命決定機構」の全体像は不明であった。TCRを介した正負の選択刺激後のリン酸化変動を網羅的に調べるために、正または負の選択を起こす複数のMHCテトラマーで胸腺T細胞を刺激し、各々のリン酸化状態を比較した。各処理を施した胸腺T細胞抽出液と安定同位体アミノ酸培養した未熟胸腺細胞株DPK抽出液を等量混合した後、酵素消化後、リン酸化ペプチドの濃縮を行った。得られたペプチド試料をLC-MS/MS測定することで、リン酸化ペプチドの同定・定量を行った。その結果、合計8564のリン酸化部位を同定し、871のリン酸化部位は負の選択刺激によって上昇することが分かった。このうち、正の選択刺激に比べて強く上昇する部位として45のリン酸化部位を同定した。中でも、p90リボソームS6キナーゼ(RSK)のリン酸化について着目しさらなる解析を行い、この経路がTCR刺激強度依存的な胸腺T細胞のアポトーシスに関与することがわかった。作用機構としては、リン酸化依存的にRSKが核移行し、核内でNur77をリン酸化することでミトコンドリアへ移行する経路があることがわかった。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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GENE CELLS
巻: 印刷中 号: 5 ページ: 354-365
10.1111/gtc.12680