研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04429
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山田 英俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90200732)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2019年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2019年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2018年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 有機合成化学 / 中分子 / 天然物化学 / ポリフェノール / エラジタンニン / 全合成 |
研究実績の概要 |
エラジタンニン類はバラ科などの双子葉植物に含まれる加水分解性タンニンで、カテキン類などと並ぶポリフェノールの一部門である。現在、千以上の既知天然物を擁する化合物群を形成しており、複雑な化学構造を有する。中分子領域のエラジタンニンの中には実用を期待できる生物活性を有する化合物があり、医薬品候補として注目されている。しかし、エラジタンニン類の構造―活性相関の知見は非常に乏しい。その理由は、構造に体系的な変化をもたせた一連の誘導体をセットで入手することが、天然からは不可能であるからである。この問題は、全エラジタンニンを化学合成できる方法を確立すれば、抜本的に解決できる。申請者は、エラジタンニンの網羅合成を目標に、本類の主要構成基の合成方法を開発し、既知天然物の半数程度を合成できる状況にしてきた。 本研究では、未だ合成方法がない、オリゴマー化した、あるいは高度に酸化された構成基を含むエラジタンニンの合成法確立を目的とする。具体的には、四量体エラジタンニンであるノボタニンKとデヒドロヘキサヒドロキシジフェノイル(DHHDP)基を有するゲラニインを全合成することを目標とする。また、化学合成可能なエラジタンニンの数を拡大すべく、特異な軸不斉を有するエラジタンニン類の合成方法も検討する。 当年度は(1)C-Oジガラート構築を鍵段階としたエラジタンニン二量体の合成研究と、(2)4,6位に軸不斉がRのヘキサヒドロキシジフェノイル基を有するエラジタンニンの合成研究を中心に研究を行った。(1)では、新開発の合成単位を用い、複雑な構造を有するエラジタンニンモノマーの二量化に成功した。(2)では、4,6位に軸不斉がRのヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)基を有する天然物、ネオストリクチニンの全合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複雑化したエラジタンニン中分子は、C-Oジガラートを生成してオリゴマー化することで構造多様性が拡大する。本研究では,C-Oジガラート構造によって単量体が4個結合した四量体エラジタンニンであるノボタニンKの全合成を目標としている。本年度は、C-Oジガラートの構築を鍵段階とした二量体エラジタンニンの合成を検討した。 私達はオルトキノンモノケタール構造を有する鍵合成単位を用いるC-Oジガラートの構築方法を報告している。しかし、この合成単位を用いた場合、原料のカルボン酸を一旦アルデヒドに還元し、C-Oジガラートの構築後、再度カルボン酸やそのエステルに戻す必要があった。この合成経路が長くなる欠点を克服するため、新しい合成単位を開発した。新開発の合成単位は、エステル体のままC-Oジガラートの構築が可能で、二量体合成を短段階化した。グルコース(以下、糖)の1位酸素に保護したガロイル基、2,3位酸素に保護したHHDP基、また、4,6位酸素に部分的に保護したHHDP基を有する合成中間体と、糖の4,6位酸素に保護したHHDP基を有し、1位酸素に新開発の合成単位をエステル化した別のエラジタンニンの合成中間体とのカップリングは良好な収率で進行し、本法を用いた二量体合成が可能であることを示した。 4,6位に軸不斉がRのHHDP基を有するエラジタンニンの合成研究では、ネオストリクチニンを全合成した。全合成は二つの経路で行った。一つは、Rの軸不斉を持たせたHHDP酸無水物を糖の4,6位ヒドロキシ基に順次エステル化する経路を採用した。他方は、糖の4,6位酸素に結合したガロイル基を酸化的カップリングしてHHDP基を合成する過程で、ガロイル基上の保護基の調整によって、軸不斉がRのHHDP基が生じる新しい発見に基づく経路である。本方法を利用することで、合成可能な複雑な構造を有するエラジタンニンの範囲が拡大した。
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今後の研究の推進方策 |
C-Oジガラートの構築を鍵段階とした二量体エラジタンニンの合成では、糖の1位酸素に新開発の合成単位をエステル化した、求電子部位の立体障害が比較的小さな合成中間体を用いた場合には、C-Oジガラートの構築を鍵段階とした二量化に成功した。しかし、より立体障害のある糖の4位酸素に、求電子部位を有する合成単位をエステル化した誘導体との二量化反応は進行しなかった。エラジタンニンには糖および没食子酸由来のヒドロキシ基が多数存在する。本合成経路では、反応点以外のヒドロキシ基は全てベンジル保護して検討した。ベンジル保護基が密集した場合、反応点から離れた位置に立体障害を生じ、相手となる反応基質の接近を妨げる事が考えられる。本研究は四量体エラジタンニンであるノボタニンKの全合成を目標としており、その実現には、立体障害によって目的の反応が妨害される現象を軽減させるべく、ベンジル基より立体的に小さなアリル基を用いるなどした合成経路の開拓が必要である。 4,6位に軸不斉がRのヘキサヒドロキシジフェノイル基を有するエラジタンニンの合成研究では、糖の4,6位酸素上のガロイル基のカップリングにおいて、その軸不斉は、Sが圧倒的に優先することが知られている。今回発見したR体が優先する現象は、合成反応としてこれまで観察されたことがなく、Rの軸不斉の発現理由は未だ不明である。カップリング前駆体の保護基や、反応条件を変更しながら、この珍しい現象の理由を解明すべく検討する。 また、今後は、全エラジタンニンの10%程度が有する、DHHDP基を初めとする、高度に酸化されたエラジタンニン構成基の合成方法について検討する。
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