研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
18H04827
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 (2019) 東京大学 (2018) |
研究代表者 |
大林 龍胆 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (90778333)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2019年度)
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配分額 *注記 |
10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2019年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2018年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | ゲノム倍数性 / 進化 / シアノバクテリア / 葉緑体 / ゲノム複製 / 染色体倍数性 / ゲノム重複 |
研究実績の概要 |
ゲノム倍数化は、現存する様々な生物種において観測される形質である。古くから倍数体生物は環境変動などへの適応能力が高いことが示唆されているが、その基本原理の解明には至っていない。大野乾のゲノム重複説によれば、ゲノムの倍数化により冗長性がもたらされ、元々の遺伝子の機能を保持したまま重複した遺伝子の機能が改変され、新規形質の進化が促進されうる。他方、進化速度を考えた場合、1細胞あたりのゲノムのコピー数が多い場合、1つのゲノムに変異が入ってもその効果が弱められる、つまり表現型の揺らぎが小さくなるため、進化速度は遅くなりうる。本研究では、この一見矛盾するゲノム倍数性の進化に対する影響を、実験と理論の両面から定量的に捉え、ゲノム倍数化と進化の関に存在する普遍原理の解明を目指す。 今年度は主に進化のダイナミクスを考える準備段階として倍数性バクテリアの進化速度とゲノム遺伝様式(進化速度)を解析するための構成的手法を構築した。また複数のコピーを持つゲノムの複製・遺伝の機構を、シアノバクテリアを用いて明らかにした。さらに、複数のゲノムを持つ生物の進化を議論するための数理モデルを構築した。これらの結果を元にして、今後は人工進化実験でゲノム倍数化の進化に与える影響を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)複数コピーゲノムの複製様式の解析:倍数体生物において細胞サイズと染色体数(倍数性)には正の相関があることが、古くから観察されてきた。しかし、この相関関係を維持している詳細な機構は不明であった。我々の研究により、細胞の成長に伴い“複製される染色体数“が厳密に制御され、細胞サイズに相関した倍数性を維持していることが明らかになった。 (2)複数コピーゲノムの遺伝様式の解析:(1)の結果より、複製される染色体の数が厳密に制御されていることがわかった。そこで、複製されるゲノムや、娘細胞へと受け継がれるゲノムがどのように選択されるのかを明らかにするため、倍数性ゲノムの遺伝様式を解析する構成的手法を確立した。現在、これを用いて倍数性の異なる複数種のシアノバクテリアで遺伝様式の解析を進めている。またシミュレーションを含めた解析によって、(1)で明らかにした複製様式が遺伝様式に直接関与することが示唆されており、今後はより詳細に遺伝様式とその普遍性を解析する。 (3)ゲノム倍数性と進化可能性:上記の実験で明らかとなった倍数性ゲノムの遺伝様式を元にして、多数のゲノムを持つ生物の進化の数理モデルを構築した。数理モデルを用いたシミュレーションにより、ゲノム数を変化させた際に進化速度が大きく変化することが見えている。この結果は上述したゲノム重複説の矛盾を解決する可能性を示唆する。 このように、各計画ともに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、倍数ゲノムの複製様式が明らかになり、それに伴う遺伝様式も順調に解析が進んでいる。しかし、シミュレーションの比較やモデル構築のためにはより定量的なデータが求められる。したがって、今後はより詳細な遺伝様式を解析するために、今年度構築した系を発展させ、1細胞イメージングで解像度よく定量することを計画している。 進化可能性に関んしては数理モデルの構築により理論的には理解しつつある。今後はこのシミュレーションの結果を理論的に深めるとともに、理論の結果を元に人工進化実験のデザインを進める。そのための準備とし進化速度を定量する方法を現在構築中であり、方法が確立し次第それぞれコピー数の異なるシアノバクテリアを用いて進化速度を解析していく予定である。
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