研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
18H04881
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神田 真司 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50634284)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2019年度)
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配分額 *注記 |
11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
2019年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2018年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
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キーワード | ストレス / 繁殖 / ホルモン / HPG軸 / HPA軸 / 下垂体 / 雌雄差 / 性的二型 / 性ステロイド / イメージング |
研究実績の概要 |
メダカの脳下垂体に存在する、メスに比べてオスで発現が高いというPro-opiomelanocortin (pomc) の発現について詳細な解析を行った。今回繁殖条件を調節した雌雄のメダカを用いて実験を行うことにより、この雌雄差は繁殖状態特異的なものであるということがわかった。したがって、アンドロゲンをはじめとする性ステロイドを投与、あるいは性ステロイドホルモンの合成阻害剤を投与することで血中 濃度を調節することにより、今後この pomc 発現の雌雄差を生んでいるメカニズムを解明する糸口が見つかった。またこの pomc 細胞そのものの生理学的実験を行うために pomc 細胞に特異的にカルシウムインジケーターを発現するトランスジェニックメダカの樹立を試み、成功した。このトランスジェニックメダカは脳下垂体の pomc細胞の2群を標識しており、それぞれの群における様々な条件下において、生理学的な応答を観察することが可能である 。これらメダカを用いたメカニズムに関する研究と並行して、自然の作っている雌雄逆転モデルや性転換魚をモデルとし、性スペクトラムを理解する研究も着手している。ヨウジウオ科の魚において雌雄が役割を逆転させている現象を、性スペクトラムのモデルとして解析するために、本年度は専門家とのディスカッションを含めた調査を行った。最も最適なヨウジウオ科の特定の種が専門家のアドバイスにより明確になり、次年度は サンプリングから開始し、脳下垂体の性スペクトラム解析に移る準備が整っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はメダカの脳下垂体に存在する pomc 遺伝子の性的二型について詳細に解析を行った。メダカは長日条件において繁殖し短日条件において生殖腺の退縮を起こす。従ってこの2条件に馴致した雌雄の個体を用いて pomc 遺伝子の発現を比較した。そうしたところ、特にオスにおいて顕著な発現を示す pomc は、雄の繁殖状態においてのみ非常に高い発現を示すことが分かった。従ってこの性的二型はオス特有の遺伝子が引き起こすものではなく、おそらく性ステロイドなどの生殖腺由来の物質によるものである可能性が高い。 この pomc 遺伝子を発現する脳下垂体の内分泌細胞について更なる生理学的な解析を行うため、カルシウムインジケーターであるGCaMP6sを pomc 細胞に特異的に発現するトランスジェニックメダカの樹立を試みた。 pomc 遺伝子は初期発生では発現が低いためダブルプロモーター法によるスクリーニング技術を用い、pomc-GCaMP6sメダカを作成することに成功をした。脳下垂体の吻部と尾部に二群のGCaMP陽性細胞が観察されたため、pomc細胞の分布に関する先行研究を照らし合わせて考えると、acth産生細胞群およびα-msh 産生細胞群を標識することに成功したと考えられる。 この何れか の細胞群あるいは両方の細胞群に性的二型が存在するはずであるが現在その解析を行うため、野生株のメダカを用いて脳下垂体の吻部と尾部を切り分ける方法を考案した。上記のトランスジェニックメダカを用い、吻部と尾部の蛍光を確認しながら同様の実験を行うことで性的二型を示す pomc の群を特定することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今回作成した pomc細胞二群を蛍光タンパク質で標識されたメダカを活用することにより、吻部および尾部の pomc 細胞群を明確に切り分けることが可能である。このトランスジェニックメダカを活用した切り分け法を用いて、それぞれの RNA サンプルを作成する。この RNA サンプルから逆転写 PCR を行うことで雌雄の性的二形を示す群を特定する。その上で、いずれかの群に特異的なプロモーター(acth 産生細胞とα-msh 産生細胞は異なる酵素を発現することで異なるプロセシングをしていることが知られているため、その酵素のプロモーターを用いる)を活用して いずれかの群のpomc 発現を過剰発現するような、メスのトランスジェニックメダカを作成する。このメスのトランスジェニックメダカを雌雄差がひっくり返った、性スペクトラムモデルメダカとし、行動等の観察を行う。 自然の性スペクトラムモデルである雌雄の役割が逆転したようなヨウジウオ科の魚であるが、本年度中にヨウジウオを専門に扱っている研究者とコンタクトを取ることができ、来年度、ヨウジウオのサンプリングに協力してもらえることが決まっている。サンプリングしたヨウジウオの pomc 遺伝子のクローニングおよびin situ hybridization法によるpomc 発現細胞の同定を行う予定である。ヨウジウオにおいて、脳下垂体の切り分けと逆転写PCR、あるいはin situ hybridizationハイブリダイゼーションの発色経過の観察を行うことにより、二群の pomc発現細胞群それぞれにおいて性的二型が存在するのかどうかを検証する。雌雄の役割が逆転しているヨウジウオについては、メダカとは異なる性的二型が見られるのではないかという仮説を検証するため、客観的な観察を行う。
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