研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04647
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
|
研究機関 | 東京大学 (2020) 東京農工大学 (2019) |
研究代表者 |
大栗 博毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80311546)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2020年度)
|
配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2020年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2019年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
|
キーワード | 化学-酵素ハイブリッド合成 / NRPS / イソキノリン / アルデヒド中間体 / アルカロイド / 生合成 / 化学酵素ハイブリッド合成 / 天然物 / テトラヒドロイソキノリン |
研究開始時の研究の概要 |
シンプルな基質群から中間体を単離せずに,五環式骨格を迅速構築できる NRPSの長所と基質/中間体の構造や反応性を合理的に改変できる有機合成化学の利点を相乗的に活かして,多官能性の生理活性分子群を人工的に創出する次世代の創薬基盤技術を開発する。既往の生合成研究は解析的な視点での研究が主流であった。これに対し本研究では,天然物全合成や骨格多様化合成研究で培った合成化学者の視点を融合した研究を推し進める。合成化学者が生合成システムをリデザインし,有効活用していくための基盤整備に貢献する。
|
研究実績の概要 |
サフラマイシンやエクテナサイジンは,テトラヒドロイソキノリン(THIQ)が複数連結した複雑な五環性骨格を持つ。抗腫瘍性抗生物質として注目され,エクテナサイジンは臨床応用されている。本研究では非天然型の基質群を設計・合成し,THIQアルカロイドやそのアナログを化学酵素ハイブリッド合成する。 NRPS のAドメインは,アミノ酸を識別して活性化するので,一般に基質許容範囲が狭い。これに対し本研究で着目したSfmC-PS (Pictet-Spengler)ドメインは,Rドメインがチオエステルを還元して生じた遊離のアルデヒドを基質とする。そのため,Aドメインと比較してPSドメインは,アルデヒド型基質に対しての許容性を大幅に拡張できる可能性がある。実際,合成した非天然型アルデヒド基質群を活用したSfmC 酵素変換を鍵工程として,最近,三系統のTHIQアルカロイド[サフラマイシンA, ジョルナマイシンA, N-Fmoc サフラマイシン Y3] の化学酵素ハイブリッド全合成を達成した(北大及川・南らとの共同研究: J. Am. Chem. Soc. 2018)。上記知見に基づいて本研究では,非天然型アルデヒド基質をTHIQアルカロイドNRPSに適用する手法を種々検討している。本年度は、有機合成した非天然型アルデヒド基質のSfmC酵素変換で一挙に五環性母骨格を構築した。酵素反応生成物を単離せずに、C21シアノ化/N12還元的アミノ化で新規アナログ群を系統的に合成した。 7連続の骨格形成反応の鍵中間体と想定している二環性アルデヒドやその前駆体となるチオエステルを合成化学的に調製し、in vitro変換の検討に着手した。 生合成マシナリーにおいて、SfmCの上流に位置するSfmBを大腸菌で発現した。実際にSfmBのAドメインの酵素活性を確認し、アミノ酸選択性やin vitro酵素変換を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サフラマイシン類、エクテナサイジン類に代表されるテトラヒドロイソキノリン(THIQ)アルカロイド群では、N12位はいずれもN-メチル化されており構造改変は極めて困難である。そのため、現在中分子薬として臨床応用されている半合成制ガン剤についてもN12の置換基は全てメチル基に限定されている。本年度は,申請者らが開発した化学酵素ハイブリッド合成法で第二級アミン型中間体を迅速に供給できる点に着目し,任意の置換基をN12位へ自在に導入することに成功した。還元的アミノ化でN12位へメチル基以外のアルキル基を導入するとともに、アシル化反応によりアミド型誘導体の創製も実現した。 7連続反応で五環性骨格を一挙に構築するSfmC酵素変換プロセスの鍵中間体と想定した二環性アルデヒドの化学合成を検討した。アルデヒド基質やその誘導体の安定性等について重要な知見を蓄積した。アルデヒドのみならずチオエステルとした中間体群を設計・合成し、in vitro酵素変換を検討できるようになった。 生合成マシナリーにおいて、SfmCの上流に位置するSfmBを大腸菌で発現した。SfmBのAドメインの酵素活性を比色分析で評価する手法を検討し、簡便に再現性良く酵素活性を評価する系を確立した。これによりSfmBのAドメインのアミノ酸選択性について実験データを蓄積し、提唱した生合成メカニズムと合致することを明らかにした。更に、SfmBとSfmCを共存させる系で連続的なin vitro酵素変換の検討に着手することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
非天然型アルデヒドやその前駆体に相当するチオエステル群を系統的に化学合成し、THIQアルカロイドNRPSに適用する。チロシン誘導体(申請者ら不斉合成法: TL 2016)は,他のTHIQアルカロイド群においても共通なので,エクテナサイジン類やサフラシン類のNRPS等へ適用していく。アルデヒド/チオエステル型基質での酵素変換にとどまらず,ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ群を活用し,非天然型基質群をPCP上へ直接導入するアプローチを並行して検討する。Pictet-Spengler 反応の進行が期待される非天然型合成基質群の適用範囲を拡大しながら、基質-酵素の最適な組合せを探索する。また、in vitro酵素反応条件を再度見直して低コスト化を図るとともに、酵素反応のスケール向上にも取り組んでいく。
|