研究実績の概要 |
発生初期の核は、比較的密度の低い一様なクロマチン構造を形成するが、何回か細胞分裂を経ると、密度の高いクロマチン領域が形成されるようになる。今年度の研究では、ヒストンテイルの翻訳語修飾の酵素反応ダイナミクスを考慮に入れて、クロマチンの相分離のモデルを構築した。酵素反応は、転写活性を示す修飾(アセチル化)と転写不活性を示す修飾(メチル化)の二種類を考慮に入れ、ミカエリスーメンテン則を用いて扱った。酵素をクロマチンに結合する因子がクロマチンの相分離をエンハンスするという最近の実験があるため、酵素とクロマチンの結合エネルギーとクロマチンの密度を変えて、クロマチン状態の解析を行い、結合エネルギーとクロマチン密度が比較的高いときに相分離が起こることを示唆する結果を得た。アセチル化したヒストンにはメチル化酵素が結合することができず、メチル化したヒストンにはアセチル化酵素が結合することができないという反相関が相分離の原因となることを明らかにした(Yamamoto, Sakaue, and Schiessel, bioRxiv, 10.1101/2020.11.30.405134)。 新学術領域で初めて会った山崎智弘講師との共同研究を開始した。核内構造体の多くは、arcRNAと呼ばれるRNAとRNA結合タンパク質の複合体によって形成されている。転写サイトでRNAが一定レートで形成されるダイナミクスを考慮に入れて、高分子溶液の理論であるFlory-Huggins理論を拡張し、相分離構造体形成の理論を構築した。この理論によって予言される凝集体は無秩序な液体であるが、山崎講師が研究されているパラスペックルは、arcRNAの両末端がシェル部を形成し、中央部がコア部を形成するようなコアーシェル構造を形成する。この構造とブロック共重合体ミセルとの類似性を利用して、パラスペックル形成の理論を構築した。
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