研究領域 | 代謝アダプテーションのトランスオミクス解析 |
研究課題/領域番号 |
20H04849
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
小早川 令子 関西医科大学, 医学部, 教授 (40372411)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
2021年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2020年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 人工冬眠 / チアゾリン類恐怖臭 / 冬眠 / 生命保護 |
研究開始時の研究の概要 |
地中生活するハダカデバネズミは低酸素環境で生存できる。冬眠動物は冬眠状態で呼吸や酸素消費量が大幅に抑制されるが生存できる。また、心肺停止患者の脳へのダメージは人為的に低体温と低代謝を誘導する低温療法で軽減できる。さらに、最近私たちは、低酸素環境での生存能力や冬眠能力を持たないマウスの体温や代謝を抑制した上で、致死的な低酸素環境での生存を可能にする、特殊な匂い分子「人工冬眠・生命保護誘発臭」を発見した。本研究では、冬眠状態と匂い分子が誘導する人工冬眠状態がどのようなメカニズムで致死的な低体温や低酸素環境での生存能力を獲得するのかを、代謝アダプテーションの観点から研究する。
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研究実績の概要 |
私たちは、チアゾリン類恐怖臭(Thiazoline-related fear odor: tFO)刺激は低体温、低代謝、低酸素抵抗性を誘導し、致死的な低酸素状態での長時間の生存を可能にするという新たな生物学現象を発見した(Matuso et al., Commun biol 2021)。TFO刺激をマウスに10時間程度連続して行うと体温は室温近くにまで低下した。その後、tFO刺激を中止すると体温は正常な状態にまで回復した。従って、tFO刺激はマウスを人工冬眠状態に誘導できる感覚刺激である。硫化水素刺激を行うことでマウスを人工冬眠状態に誘導できることが知られる。硫化水素はミトコンドリアの酸素呼吸を阻害する強い毒性を持つが、低濃度での刺激であれば酸素呼吸を適度に阻害でき、低体温状態を誘導すると考えられている。硫化水素をヒトの人工冬眠誘導剤、その結果誘導できる、虚血時の脳神経細胞保護薬として利用できる可能性があるが、安全性の問題は懸念点となる。これに対して、tFOは硫化水素とは異なりミトコンドリの酸素呼吸を阻害する活性を持たない。また、tFOは三叉神経と迷走神経のTRPA1受容体に結合することで、脳へ感覚信号を伝達しその結果、感覚誘導性の人工冬眠状態を誘導できるという作用機序が大きく異なることが明らかになった。興味深いことに、tFO誘導性人工冬眠状態では、自然の冬眠状態とは異なり、血液中の酸素飽和度が上昇したり、脳へのグルコース取り込み量が増加したりした。また、両者の状態では活性化される脳領域が大きく異なっていた。TFO刺激は脳へのグルコース取り込みを加速するが、PDHの活性を抑制することでミトコンドリアの酸素呼吸は抑制していることが明らかになった。この結果、低酸素環境での脳保護作用が誘導されることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然の冬眠とtFO誘導性の人工冬眠状態が異なる生体応答であることを解明した。TFO誘導性の人工冬眠状態は危機状態での生命保護作用を極大化すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
冬眠の制御には脳の視床下部経路が重要な役割を果たすと考えられている。一方、tFO誘導性人工冬眠の制御には脳幹-中脳経路が重要な役割を果たすことが明らかになっている。両者を司る脳経路の違いを機能的に解明することで、両者で誘導される生理状態の違いを生み出す原理を解明する。
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