研究概要 |
数日スケールの気象が大気海洋間CO2フラックスに及ぼす影響を見るために、本研究で構築した海洋炭素循環モデルを亜寒帯北西太平洋に適用し、数日スケールの気象の影響を含む風と除外した風でそれぞれモデルを駆動して得られた結果を比較した。その結果、正味では大気CO2の吸収域として機能しているこの海域において、数日スケールの気象が年間の大気CO2吸収量を3%程度減少させることが分かった。また、海上の大気CO2濃度には海面気圧や水蒸気圧による補正を加える必要があるが、従来の海洋炭素循環モデリングの多くではこの補正を行なっていなかった。 本研究では、この補正を行なわないことによる大気海洋間CO2フラックスの誤差が最大で7%程度に及ぶことを示した。 海洋生態系・植物生理結合モデルを赤道東太平洋に適用し、海洋生物の生理に影響を与える300-700nmの波長を持つ紫外線・可視光域の海水中の光環境と生物化学過程の両者を同時かつ現実的に再現した。さらに、取得した多様な海洋環境下でのクロロフィル濃度および植物プランクトン炭素量に関する観測データとモデル結果との比較を通じて、モデルに導入されているパラメータ値の較正を繰り返し行ない、結合モデルの再現性を向上させることに成功した。 逐次散乱法を用いた海洋放射伝達モデルTRAD(Tanaka,2010;Tanaka et al.,2011)を開発し、海水中の輝度分布の計算に供した。得られた結果は現場観測データや、HydroLightの結果とも良い一致を示し、本モデルの有効性が検証された。本モデルの主な特徴として、高散乱海域においても適用可能、計算式において数学的な仮定がなく物理的解釈が可能、計算時の設定において層厚を理論的に決定、各散乱次数における輝度分布も出力可能、といった点が挙げられ、今後、関連分野において広く用いられることが期待される。
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