研究概要 |
マイクロ波の有機反応の分子メカニズムを解明するために,温度,出力制御ができるシングルモードマイクロ波装置を用い,さまざまな有機反応について,反応速度,反応収率,温度,反応基質の種々のパラメータ,反応場にかかる溶媒パラメータなどを比較し,マイクロ波反応のメカニズムの解明を検討した。平成22年度の成果としては,有機反応に加え,酵素反応の解析から多くの成果を得た。酵素反応をアレニウス式にあてはめたところ,パラメータとして活性化エネルギーよりも頻度因子の項に影響を与えることを明らかにした。また,Polymerase Chain Reaction (PCR)などの遺伝子増幅反応に対するマイクロ波照射効果も明らかにした。PCR法は,(1)2本鎖DNAから1本鎖DNAへの熱変性,(2)プライマーのアニーリング,(3)DNA Polymeraseによるプライマーの伸長反応という3つのステップを繰り返すことで遺伝子を増幅する。その際,(1)と(3)の過程で加熱操作をともなう。PCRについては,2003年にスエーデンのグループが検討したが,マイクロ波照射の効果は見出せなかった。我々は,DNA Polymeraseの種類を変えマイクロ波照射下で効率よく遺伝子を増幅できることを明らかにした。Polymeraseの種類に応じて,各加熱ステップで効果が異なることも明らかにし,蛋白質の熱変性とは異なるマイクロ波変性の可能性を示す結果を得た。マイクロ波照射下での有機化学反応や酵素反応を詳細に調べた結果,マイクロ波照射が,単なる加熱の効果ではなく,マイクロ波特有の種々の効果があることを示した意義は大きい。化学反応を劇的に加速するマイクロ波化学は,省エネルギーや低炭素技術として大いに注目されているが,医療や食品分野に直結するバイオ技術に対しても,さまざまな局面で適用できると考えられる。
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