研究概要 |
スピントロニクスの分野では,デバイスの高性能化に向けて高スピン分極電流源の探索が鍵となっている.なかでも,ホイスラー合金と呼ばれる物質群は,伝導電子が100%スピン分極した「ハーフメタル」物質であると理論予測されており,国内外のいくつかのグループにより精力的に研究されている.このような背景のもと,当研究グループでは,薄膜成長を原子層レベルで制御することによって合金規則度や界面構造が制御されたホイスラー合金やそれと類似構造をもつ新規合金の薄膜を作製し,原子核をブローブとした局所的な磁性測定手段であるメスバウアー分光法や放射光核共鳴散乱法を用いて規則度の乱れや界面の影響を精密に評価することによって,高スピン分極合金の探索にブレイクスルーをもたらすことを目指してきた. 平成22年度は,前年度行われたCo_2MnSnホイスラー合金薄膜の界面磁気状態やその温度依存性の研究に引き続き,Co_2MnSn合金薄膜やCo_2FeSn合金薄膜を用いた磁気トンネル接合の研究を中心に,スピン分極電流源の研究を推進した.Co_2FeSnは熱平衡状態では存在しない合金であるが,原子層レベルで成長を制御することにより薄膜作製に成功し,これを用いた磁気トンネル接合のトンネル磁気抵抗効果の観測に成功した.これらの結果は,スピン分極電流源の候補物質を非平衡物質にまで拡げるものとなっている.一方,Co_2MnSn層とFe層を強磁性層として用いた磁気トンネル接合において,磁気抵抗効果の符号が温度に依存して反転する現象が見い出された.この現象は,MgOバリア層内の磁性不純物が電子のトンネル過程に寄与することにより,通常スピン方向に依らないとされている電子透過確率がスピン依存するようになる,というモデルにより説明できる.室温付近でのトンネル磁気抵抗特性改善のためには,このような効果を低減することが重要であると提言する結果となっている. 以上のように,高スピン分極電流源の探索に関するユニークな成果が得られた.
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