研究概要 |
強磁性金属から実用半導体材料への電気的なスピン偏極電子の注入は、スピントランジスタなどの半導体スピンデバイス実現のための重要な基盤技術である。高スピン偏極電子を注入するためには、金属/半導体接合部をトンネル接合とする必要があることがわかっている。これまで、障壁層材料としてAlO_XやMgOを用いてGaAsへのスピン注入実験が行われきた。しかしながら、これまで高いスピン注入効率と電荷注入効率を兼ね備えた障壁層材料は見出されていない。すなわち、従来の障壁層材料はGaAsとの界面で多量の界面準位が導入されるため、接合界面から大きな寄生電流が発生する。 これまで、我々は本特定領域における研究において、Fe/GaO_x/(Al)GaAs量子井戸(QW)構造から構成されるスピン偏極発光素子(spin-LED)を用いて、電子の電荷注入効率およびスピン偏極率を見積った。その結果、Fe/GaO_x、注入源はオーム性接合に匹敵する電荷注入効率と低温で高いスピン注入効率(スピン偏極率約40%)を兼ね備えることが明らかとなった[Appl. Phys. Express2, 083003(2009), Appl. Phys. Lett. 96, 012501(2010)]。そこで本年度は、室温でのスピン注入に向けた取り組みとして、Fe/GaO_x/Feから構成される磁気トンネル接合を作製し、室温における接合界面でのスピン分極率を見積った。その結果、室温においても高いスピン分極率(22%)を有することが明らかになった。この結果より、GaO_xがGaAsベースのスピン注入のための重要な障壁層材料であることが示された。
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