研究概要 |
腸管寄生線虫の多くは幼虫期に肺を通過するが、その意義は不明である。肺通過の生物学的意味を解明するため、ベネズエラ糞線虫のゲノム情報を高速遺伝子解析装置によって取得し、同時に、虫卵・孵化直後の幼虫、感染幼虫、肺通過時の幼虫、成虫におけるトランスクリプトームの変化を解析した。 ゲノム解析では、ゲノムフラグメントを2ランと8kbのペアエンドを1ラン実施し、計3,328,633リード(総計約1.2Gb)の塩基配列のアセンブルから、総計2,525本のscaffoldが得られた。scaffoldを合計した総塩基数は54,273,144bpであった。トランスクリプトーム解析では、虫卵と第一期幼虫、感染幼虫、肺移行時の幼虫、成虫の各段階からcDNAを調製し、合計200万以上のリードから13,981本のisotig(9,843のisogroup)が得られた。各発育段階ごとにリード数で発現を比較すると、肺移行時特異的に発現がみられる遺伝子として、アスタシン様メタロプロテアーゼと、Notchシグナルに関わるOsm-11が同定された。ベネズエラ糞線虫の全トランスクリプトーム中には総計93種類ものアスタシン様メタロプロテアーゼが出現し、その中の4種が肺移行期特異的であった。ベネズエラ糞線虫ゲノムには138種類のアスタシン様メタロプロテアーゼ遺伝子が見出されており、自由生活線虫C.elegansのアスタシン様メタロプロテアーゼは39個に過ぎないことを考えると、この酵素の寄生生活における重要性が示唆された。ブタ回虫でも肺移行期幼虫に特異的に発現するプロテアーゼが存在することから、線虫が体内移行することで特定のプロテアーゼの発現がオンになり、何らかのシグナルが伝達されて、発育が次の段階に進むのであろうと考えられた。
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