研究概要 |
細胞伸長は,最終的には「細胞壁のゆるみ」とよばれる細胞壁の再編(リモデリング)過程を通して制御される。双子葉植物では,キシログルカンがこの過程で中心的役割を担うこと、エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)がキシログルカンの構造変化を触媒することを,我々は明らかにしてきた。しかし,キシログルカンは単子葉植物やコケの細胞壁では主要な細胞壁成分ではないことから,これらの生物種ではXTHが関与しないと考えられてきた。ところが,イネやヒメツリガネゴケにおいても,多数のXTH遺伝子が存在し,細胞伸長との関連を示唆する特異的な発現パターンを示すことを我々は明らかにしてきた。本研究では、これらの知見を再検証することにより,陸上植物に於ける細胞壁のゆるみに関わる分子の特定を目指して研究を進め以下の成果を得た。 (1)OsXTH19はイネの茎葉,および生殖器官の伸長中の組織で発現し,キシログルカンを基質として加水分解反応を触媒し,転移反応活性を示さないことを明らかにした。この結果はXTHによる細胞壁のゆるみの制御機構が,少なくとも被子植物間で保存されていることを示している。 (2)ヒメツリガネゴケには被子植物と同様の機能を持つXTHが多数存在するが,それ以外に固有のXTHが存在する。PpXTH32はその一つで,タンパク質構造や,細胞内局在パターン,組換えタンパク質の酵素機能から考えて,被子植物にはない独自の機能を担うタンパク質として進化したと考えられる。 (3)キシログルカン以外で細胞壁のゆるみに関わることが示唆されてきたイネのβ1,3/β1,4-グルカンや,ペクチンのメチル化の役割についての解析を進めた。シロイヌナズナの花茎の細胞壁の伸長モードから硬化モードに切り替え過程の細胞壁リモデリングにペクチンの脱メチル化を触媒するペクチンメチルエステラーゼ(PME)が必須の役割を担うことを明らかにした。
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