研究概要 |
本研究課題の大目標である「半導体全量子光学応答理論」の構築の予備理論として,本年度は「フレンケル励起子系の全量子光学応答理論」に着手しました.フレンケル励起子は,励起子の束縛エネルギーが大きい極限でのみ成立する描像であり,「半導体光学応答」の部分集合と位置づけられますが,既存量子光学理論との接続が良いため,その拡張を試すには格好の理論モデルです.フレンケル励起子のコヒーレンス長が光波長に比べて短いという通常の状況では,長波長近似が適用できるため,単一発光体を対象としていた既存量子光学理論(入出力定式化)を本光学系のような多体量子系に対しても問題なく拡張できることを示しました.また,フレンケル励起子のコヒーレンス長が比較的長い低温極限でも,フレンケル励起子を局在励起子の集合体として捉え,接続部分に適切な境界条件を課すことによって拡張することを試み,拡張の糸口を掴みつつあります. また,既存量子光学では量子物質として主に二準位系を対象としていたところを,ラダー型3準位系・A型3準位系などの多準位系に拡張し,新奇量子現象を模索しました.これらの3準位系を一次元光子場と結合させると,低次元性のために入射光と物質からの輻射とが不可避的に干渉し,光と物質との相互作用が劇的に増強されることが示されます.例として,A型3準位系と光子とが反射型配置で相互作用すると,物質と光子の量子情報を確率1で交換し得ることが示されます.この効果を用いて,物質を光量子ビットの一時的メモリとして活用する新しいタイプの光量子ゲートの理論提案を発展させました.
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