公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究課題では、分子性導体中の強い電子間相互作用の影響を理論的に取り扱い、分子性導体のグラス的振る舞いを明らかにすることを目的にしている。まず分子性導体中の電子の交換相関効果をバーテックス補正の観点から取り扱い、電荷秩序近傍におけるスピン帯磁率の増加を議論した。これはθ型分子導体やバナジウム酸化物などの実験結果と対応すると考えられる。バーテックス補正についての考察をさらに進め、電荷秩序近傍にある電子系を揺らぎ交換近似(FLEX)で取り扱い、各種の熱力学量を計算した。その結果、電荷秩序近傍で電荷圧縮率が負となることを示した。この計算では近接サイト間のクーロン相互作用のみを取り扱ったが、より長距離のクーロン相互作用を平均場で取り扱うと、負の電荷圧縮率との間に競合関係が生じる。この競合関係を注意深く考察し、数十ナノメートル程度の長さスケールで不均一な電子状態が実現されることを議論した。このメソスケールの電荷不均一状態は、電荷パターンとフェルミ面の差し渡しのあいだの大きな不一致に由来し、分子性導体特有の現象となっている。この結果について、今後実験的な検証が待たれる。さらに異なるモデルパラメータでは、フェルミ面が大きく変形しすることを示した。またフェルミ面上でホットスポット・コールドスポットが形成され、準粒子の散乱時間が異方的になることも示した。この結果は、分子性導体の磁気抵抗効果などの輸送特性を理解する際に重要になると期待され、やはり今度の実験検証が待たれる。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
J.Phys.Soc.Jpn. 78
ページ: 104002-104002
130005437139