公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
ATPの"加水分解エネルギー"とは何か?この問題の理解にとって、出力として得られるエネルギーの生体内での利用を考えることは不可欠である。本研究では、ATPを利用する生体分子の一つの例として、微小管というレールの上を歩行しつつ小胞体などの荷物を輸送するキネシンと呼ばれる生体分子モーターを用いて、その酵素反応によって変換される"ATPの加水分解エネルギー"と力学的エネルギー出力との関係を、ヘテロダイマー変異体を用いた部位特異的観察により定量することを目的で研究を行った。当該年度では、昨年度に構築した光ピンセットを用いたキネシンの制御・計測系をさらに改良し、キネシンにかける負荷を一定に保つためのフィードバック制御を、従来のPCを用いた制御からFPGAボードを用いた高速制御に変更することにより、計測の時間分解能と等しいマイクロ秒オーダーでのフィードバック制御を可能にした。これにより、さらなる詳細な力学応答解析が可能となった。また、この改良した装置を用いて、入力となるATPの自由エネルギー変化と力学出力の関係を計測し、エネルギー変換効率を定量的に解析した。その結果、従来法である固定(無制御の)トラップで計測した様々な負荷条件の混在した条件でのATP1つあたりの力学出力の計測結果からは、生理的な条件に近い自由エネルギー変化(約80pNnm)で効率がピークとなるような生体機能に特化した力学特性が観察されたのに対して、今回改良したフィードバック装置により負荷を精密に制御しながら測定したストールフォース(移動速度が0となる準静的な力)の解析では、ATPめ自由エネルギー変化の広い範囲において、一定め高い効率を示すという新しい結果が得られた。これらの結果は、初年度に得られたヘテロダイマーでの知見とあわせて、微小な系でのエネルギー変換に特異的な性質を示しており、生体分子の持つ未知のエネルギー変換機構の理解やその応用において重要な意義を持つ。
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物性研究
巻: 96 ページ: 149-150