研究領域 | 新しい星形成論によるパラダイムシフト:銀河系におけるハビタブル惑星系の開拓史解明 |
研究課題/領域番号 |
21H00048
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
高桑 繁久 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (50777555)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 星、惑星形成 / 星周円盤 / ALMA望遠鏡 / 連星系 / 惑星形成 / ALMA |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近年、その存在が明らかになってきた、非常に多様な惑星系がどのように形成されているのかを調べる。若い星の周囲で普遍的に観測される分子ガスと個体微粒子「ダスト」からなる円盤「原始惑星系円盤」は、惑星形成の現場である。本研究では、中心星の質量や年齢、さらには星の存在する領域が異なった円盤のALMA望遠鏡による詳細観測を行う。さらに、これらのデータを解析するための専用のソフトウエアツールの開発も行い、円盤での惑星形成の数値モデルも構築する。このようにして観測、数値計算両面で円盤での惑星形成の多様性を調べていく。
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研究実績の概要 |
本研究は、中心星の様々な性質の違いによる、星周円盤、惑星形成の多様性を調べることを目的とする。2021年度は双子の星「連星」の周囲での円盤、惑星形成の研究を主に行ってきた。そのうちのひとつである XZ Tauについては、2015年、2016年、2017年と3年間に及ぶALMA望遠鏡のダスト連続波のデータの詳細解析を行った。その結果、連星の個々の星に付随するダスト円盤の存在を見出すことができた。さらにXZ Tau Bが XZ Tau Aに対して、3年間で 3.4 天文単位、南西側に移動していることが明らかになった。これは連星間の軌道運動を示していると考えられる。1989年からの赤外線観測の結果と組み合わせて解析した結果、連星は離心率0.74、軌道長半径25天文単位、軌道周期155年で軌道運動していることが明らかになった。 また一酸化炭素分子輝線のデータにより個々の星に付随する星周円盤の構造を調べたところ、二つの星周円盤の傾きは40度以上も異なっていることが明らかになった。これらの円盤の傾きは連星の軌道面とも一致していない。これらの観測結果は、個々の連星周囲でそれぞれ傾いた惑星系が形成される可能性を示唆している。 さらに星周円盤の分子ガスの分布を調べたところ、分子ガスはダストと違い、半径260天文単位にわたって広がって存在していることが明らかになった。連星の軌道長半径よりも広がったガス円盤の存在は、二つのガス円盤が相互作用を起こしており、物質のやり取りをおこなっている可能性を示唆している。 このような傾いた連星系でのガス円盤の相互作用の詳細を調べるべく、現在、台湾中央研究院の若手研究者に数値シミュレーションを行ってもらっている。この数値シミュレーションをもとに2023年度のALMA望遠鏡の観測プロポーザル Cycle 10 の執筆を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、本研究課題の初年度であった。上記XZ Tauの研究成果は、アメリカの学術雑誌 Astrophysical Journal に掲載されたのみならず、ALMA望遠鏡の代表的な学術成果の一つとしてプレスリリース、記者会見まで行うことができた。記者会見の内容は、2021年10月28日南日本新聞朝刊3面に掲載されたほか、yahoo ニュースなど多くのネットニュースでも取り上げられた。個々の連星周囲でそれぞれ傾いた惑星系が形成される可能性や、ALMA望遠鏡の複数年の観測のアーカイブデータを解析することにより天体の運動のアニメーションを作成できることを示した本成果は、本研究課題の目標の適ったものである。 一方、水素の核融合が起きない非常に低質量の星「褐色矮星」の候補天体のひとつ J162656 の周囲のダスト、ガス円盤のALMAデータの解析も行っている。これまでの解析の結果、こういった非常に低質量の星の星周円盤においても、惑星の存在を示す溝状構造が存在する可能性を見出すことができた。この解析結果をもとにALMA望遠鏡のCycle 9 の観測プロポーザルを提出し、観測時間を獲得することができた。観測は2023年8月に実施される予定である。この観測により連星周囲の惑星形成のみならず、超低質量星周囲での惑星形成の詳細を調べることができると期待される。これによって、惑星系形成の多様性に迫っていく。 このように2つの天体と数は少ないものの、惑星形成の多様性に迫るケーススタディ、その成果は出てきており、概ね研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまずはJ162656の新たな観測データの解析を進め、既存のデータと合わせて着実に論文化していきたい。その上で、これまでに観測されたALMAのアーカイブデータの検索から、惑星形成を探る上で有用と考えられる天体のデータを探し出し、順次解析を進めていく。これまでのところ、年齢が100万年程度の原始星 B1-cや、星の胎児 first coreの候補天体であるL1451-mmについてのアーカイブデータの解析を研究室の学生に進めてもらっている。進化段階の異なるこれらの天体周囲での円盤形成や円盤の内部構造を調べることにより、星形成のごく初期段階から惑星形成がどのように進行していくのかを調べることができると期待される。 一方、これまでのような個々の天体のケーススタディでは、惑星形成の多様性の一般的な描像を得ることはできない。したがってより多くの天体サンプルにおいて統計的な研究を遂行する必要があるが、現状のマンパワー、リソースでは現実的には難しい。この状況を改善するためにデータの自動解析や、画像の自動作成のpython codeの作成を今後行っていく。ALMA大型観測プログラムeDiskの共同研究により、画像の自動作成のためのコードの雛形は完成している。現状ではこのコードでも全て自動的に解析を進めることはできず、いくつかのステップで人間がチェック、改訂する必要がある。今後、eDiskの共同研究者とも議論して、どのようにしてデータ解析の負荷を軽減し、ALMA望遠鏡の膨大なアーカイブデータを真に活かして研究を遂行できるかを探っていきたい。
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