研究領域 | シンギュラリティ生物学 |
研究課題/領域番号 |
21H00413
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤岡 容一朗 北海道大学, 医学研究院, 講師 (70597492)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
|
キーワード | ウイルス / カルシウム / 広視野イメージング / 感染拡大 / propagating wave |
研究開始時の研究の概要 |
新しい切り口でのウイルス感染症対策を開発するためにも、分子・細胞レベルでの研究にとどまらず、ヒト生体内での感染症発症機序を理解するための研究が求められている。しかし、ウイルスが宿主細胞に取り込まれた後、ヒト生体内で感染が広がる過程について、未解明の部分が多い。我々は粒子数を制御した条件下で感染成立および細胞応答を定量解析したところ、粒子数の多寡で感染時の細胞応答および感染機構が劇的に変化する、すなわちシンギュラリティ現象を示唆するデータを得た。本研究ではシンギュラリティ細胞の同定および、細胞群全体におけるマクロな視点でのシグナル伝達時空間解析を通してシンギュラリティ現象のメカニズム解明に挑む。
|
研究実績の概要 |
ヒト生体内での感染症発症機序を理解することは、新しい切り口での感染症対策を講じるためにも重要である。しかし、これまでのウイルス研究は、十分にウイルス量の増えた段階を想定した条件下で実験が行われていたため、生体内での感染拡大の機構はほとんどわかっていない。我々はこれまでに粒子数を厳密に制御した定量的ウイルス感染実験系を構築し、ある一定の粒子数が細胞に曝露すると感染細胞数が爆発的に増えることを見出している。これをウイルス感染のシンギュラリティ現象と定義し、本研究においてその分子メカニズムの解明に挑んだ。R3年度はカルシウムバイオセンサーであるO-GECOを恒常的に発現する細胞株を樹立し、ウイルス感染後のカルシウムダイナミクスを細胞集団レベルで詳細に解析した。その結果、感染細胞でカルシウム濃度上昇が生じた後、近接する細胞においてカルシウム濃度上昇が伝播する現象、"propagating-wave"が発生することを見出した。このpropagating-waveはA型インフルエンザウイルスの複数の亜型において認められたことから、A型インフルエンザウイルスに共通する現象であると示唆される。また、興味深いことに、2次元培養環境下よりも3次元培養環境下で上皮層を形成した細胞集団において、このwaveの発生が多く観察された。カルシウム伝播の速度を定量したところ、300 um2/sec程度であることから、細胞外に分泌された小分子を介してカルシウム濃度上昇が促されると考えられる。各種小分子の阻害薬存在下でカルシウムイメージングしたところ、propagating-waveの発生を抑制する複数の阻害薬を同定した。さらに、この阻害薬によりウイルス感染が抑制されたことから、propagating-waveの発生が感染に重要であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度の計画の一つは、インフルエンザウイルス感染によって惹起されるpropagating-waveの発生をイメージングすることであった。また、2次元培養環境下よりも3次元培養環境下の方がより多くのwaveが発生すること、waveの発生を捉えるためには、R-GECOよりもO-GECOの方が適していることなどが明らかとなり、次年度以降に本現象を解析する基盤構築が完了した。また、このpropagating-wave発生の分子メカニズムも解明されつつあること、およびpropagating-waveの発生が感染を促進することを明らかにしたことから、当初の研究実施計画以上に進展していると自己評価した。ただし、コロナ禍の影響で3次元培養に必要なMatrigelが一時期から全く手に入らず、保有している在庫でしのいでいる状況であるため、3次元培養環境下での評価は停滞している。現在、代替品を探索中であるがMatrigelを利用した3次元培養環境下と同等のwaveを観察できるようなものは見つかっていない。以上の状況を踏まえ、おおむね順調に進展していると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
R3年度においてA型インフルエンザウイルス感染によって、感染細胞を起点として近接細胞でのカルシウム濃度上昇が伝播するpropagating-waveの発生を明らかにした。R4年度はその発生機序の全容解明に挑む。R3年度に同定した小分子の受容体を特定し、その阻害薬がpropagating-waveの発生および感染を抑制するか明らかにする。もし感染抑制する阻害薬が同定できたならば、マウスを用いた動物感染実験を行い、in vivoでの感染抑制効果を検証する。以上により、将来的な抗インフルエンザウイルス薬の創薬への基盤構築を行う。 さらに、感染細胞から小分子が分泌される分子メカニズムも解明する。我々がこれまでにインフルエンザウイルス感染によって惹起される細胞内シグナル伝達経路の大部分を解き明かしており、どの因子がカルシウム濃度上昇を介して小分子の分泌を促進するか同定する。 propagating-wave発生の条件が同定されつつあるので、同様の条件で総括班の有するAMATERASによる超広視野イメージングを行う。すでに、固定サンプルでイメージング可能かどうかの条件検討を進めている。イメージングのみならず、可能ならばpropagating-waveの起点となる細胞(=シンギュラリティ細胞)を1細胞ピックアップし、プロテオーム解析やグライコー ム解析等によりその特徴を決定する。 以上により、シンギュラリティ細胞での感染メカニズムおよびシンギュラリティ細胞を起点としたpropagating-wave発生の分子メカニズムおよびその意義を明らかにすることで、ウイルス感染の包括的な理解に挑む。
|