研究概要 |
本研究内容は三角スピンチューブACrF_4(A=K,Rb,Cs)を作製して,その基底状態や磁気励起状態を様々な実験手法を用いて明らかにする事である。今年度は特にCsCrF4を対象にした実験を精力的に行ってきた。ミューオンスピン共鳴より,4K以下で磁気相転移を起こすことを突きとめた。このことは比熱や直流帯磁率では全く観測できない現象であり,おそらくスピンの動的な振る舞いが起源であると思われる。さらに核磁気共鳴や交流帯磁率測定を行った結果,その磁気秩序状態はスピングラス的であると思われた。しかしながら中性子磁気弾性散乱の結果によると,結晶構造は正三角形にもかかわらず,その頂点スピンの内2個が反強磁性秩序を起こし,1個が常磁性状態である,もしくはその逆状態であるような部分秩序と呼ばれる極めて稀な磁気状態であるとの結果が得られた。さらに強磁場・多周波数を用いた電子スピン共鳴を行った結果,反強磁性秩序に由来する信号と常磁性状態に由来する信号の両方がほぼ同じような強度で観測でき,中性子散乱実験を指示する結果が得られた。磁気秩序状態については今後,さらなる検討が必要である。 一方,KCrF_4についても,ミューオンスピン共鳴,核磁気共鳴,交流帯磁率測定を行ったが,本物質では三角形が歪んでいるため,スピンフラストレーションが解消し単純な反強磁性秩序状態に相転移していることを突きとめた。 さらにCsCrF_4やKCrF_4のCrイオンを非磁性Alや磁性Feイオンで一部ランダムに置換することによって新奇な磁気状態の出現を目指した。その結果,CsCr_<1-x>Fe_xF_4では反強磁性フラストレーション状態に強磁性交換相互作用が入り込むことによって新奇な磁気秩序状態が出現することを発見した。今後さらなる研究を進める予定である。
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