研究概要 |
スペクトルを構成する重要要素のうち,「強度」と「形状」に関しては,これまでに十分な理解が得られているとは言い難い。これらの理解を統合的に且つ十分に進めることにより,振動スペクトルを十分に生かし切った解析が可能になると考えられる。本研究では,分子間相互作用に由来する振動バンドの強度と形状の変化を統合的に理解するための解析法理論を,実験研究者に提示することを目的としている。今年度は以下の成果を得た。 1.水素結合に与る水分子の並進運動に伴う電子密度の変化を,水30分子程度から成るクラスターを対象とした理論計算により検討した。その結果,この並進運動により大きな分子間電荷フラックス(分子間の電荷の授受)が引き起こされ,それが十分な大きさの双極子微分として現れることを明らかにした。これを取り入れることにより,液体の水のTHzスペクトルにおける~200cm^<-1>のバンドを再現できることを,1024分子系のMD計算を用いて示した。 2.ペプチド鎖のアミドII赤外バンド強度が大きな2次構造依存性を示すメカニズムを,理論計算により検討した。当該ペプチド基のN-H基と隣接ペプチド基のC=O基の位置関係と振動形により,ペプチド基間電荷フラックスの赤外強度への寄与が変化することが,重要であることを示した。 3.DMF同位体混合液体のC=O伸縮ラマンバンドに見られるバンド融合と強度偏りのメカニズムを,理論的に検討した。時間領域の理論計算により,実験的に得られるバンド形を十分な精度で再現することができることを示し,バンド融合と強度偏りが,異なる同位体種間の分子間振動カップリングによって生ずることを明らかにした。
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