研究概要 |
本研究は,細胞内環境が蛋白質分子の物性や動態に及ぼす影響を調べるための,in-cell NMR法を用いた新しい解析手法の開発と応用に関する研究を行うことを目的とする.細胞内は試験管内の環境とは著しく異なっているため,蛋白質のメカニズムの理解のためには,細胞内環境における立体構造や分子動態を解析する必要がある.In-cell NMRは,生細胞内の蛋白質の物性や動態を原子分解能で解析できる現在唯一の手法であるが,手法として不十分な点も多い. H22年度は,「生細胞中の蛋白質の高次構造解析法」の研究として,NMR測定法,データ処理法などの要素技術にさらなる改良を加えて,大腸菌内濃度が前例の1110程度(~0.5mM)の連鎖球菌protein G B1ドメインを用いて立体構造解析を行った.その結果,最終構造の主鎖原子位置のRMSDが0.5Aと,前例よりもさらに高分解能な立体構造の決定に成功した. また,真核細胞中でのin-cell NMRを用いた蛋白質の立体構造解析を目指して,昆虫培養細胞sf9中でGB1蛋白質を発現させ,測定を行うことで非常に良好なin-cell NMRスペクトルを得ることにも成功した. さらに,「生細胞中の蛋白質のダイナミクスの解析」として,高度好熱菌TTHA1718について,大腸菌細胞内試料の^<15>N核のrelaxation dispersion実験とTROSY selected spin-echo実験によるダイナミクス解析を試みた.その結果,大腸菌細胞内のTTHA1718の回転相関時間は約20nsであるが,Rex(線幅に対する化学交換の寄与)は予想に反して非常に小さいことがわかった.
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