研究概要 |
本研究は、遺伝性難病である家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の原因タンパク質,トランスサイレチン(TTR)の細胞内レベルでの制御機構を解明し,最終的には新規FAP治療法開発を目指し研究を実施してきた。今年度のひとつ目の課題は、変異TTRへのN型糖鎖修飾機構の分子機構の解明である。TTRの糖鎖修飾部位が立体構造内部に存在することからミスフォールディングとの関連に着目し検討を行った.その結果、小胞体局在化した変異TTR(本来,非糖鎖付加タンパク質)はミスフォールド状態に応じて,極めて稀な翻訳後N型糖鎖修飾を受けること、変異TTRへのN型糖鎖修飾は凝集性の高いTTRの可溶性維持に寄与し,ERAD経路とは異なるN型糖鎖依存的なERAD経路での分解を誘導すること、この新たな分解経路が機能しなくなると、細胞増殖スピードが低下してくること等を明らかにし、Molecular Cellに論文が受理された.本研究は、ミスフォールド状態のタンパク質の新たな分解経路の発見という極めて重要な知見を得ることができ、これらの成果は、様々な病態の発症のメカニズムに重要な視点を与えうるものである.FAPは発症まで約20-30年という比較的長い時間を必要とすることから,発症していない遺伝子保因者への治療がFAP発症抑制・遅延に非常に重要であるため,予防薬および治療薬の開発が強く望まれている.本研究知見は、我々が提案する新規治療標的である小胞体品質管理機構を利用した、変異タイプに依存せず,変異TTRの産生を抑制する肝移植と同等の治療効果が得られると期待される「変異TTRの細胞外分泌抑制・細胞内クリアランスの促進」プロジェクトにおいても有用な基礎的情報を提供した.
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