研究概要 |
量子推定理論とは,測定を介して観測者が物理系から取り出せる情報の限界を非可換統計学の観点から厳密に研究する分野である.本研究の目的は,量子推定理論におけるこれまでの理論的研究成果を,主として研究計画DO1「光子量子回路による量子サイバネティクスの実現」の研究代表者である竹内繁樹氏の研究グループとの共同研究を通じて実験的に検証すると同時に,その過程で得られる様々なノウハウ・研究成果を量子情報操作/制御の基盤技術として量子情報システムに組み込むことで,測定を介した量子系のフィードバック制御方法を確立し,量子情報科学の発展に寄与することにある. 本年度は,光子の偏光方向の適応的推定実験を系統的に行い,研究代表者の先行研究である適応的最尤推定法の強一致性および漸近有効性(J. Phys. A: Math, Gen., 39(2006)12489)を世界で初めて実験的に検証することに成功した.まず,光子の偏光方向を定める半波長板の設定値θを推定する適応的推定実験において,光子数n=300の段階で,推定値の分布が理論的に予測される正規分布に,設定値θ=0,30,60,78.3(deg)のいずれにおいても十分収束していることがカイ2乗検定で確認できた.引き続き,推定値の期待値と分散の区間推定を行ったところ,分散についてはいずれの設定値においても,信頼水準90%という厳しい水準の信頼区間に理論値(量子Fisher情報量の逆数)が入っていることが確認できた.一方,期待値については,真値が信頼水準90%の信頼区間に入っているか,もしくは最大でも0.04(deg)以内のずれに収まっていた.実験系の設定精度が±0.2(deg)であることを考慮すると,以上の結果は,働て高い精度で理論予想を実験的に検証できたことを意味する.
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