公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
細胞や細菌の化学走性(または走化性)は、細胞活動の基本単位である。生理学者T.W.Engelmannが130年前に細菌が光合成を活発におこなうアオミドロに遊走する現象(好気走性)を記載して以来、今日まで多くの走化性研究が行われてきた。受精において卵が精子を誘引する現象も走化性の代表例であり、古くは藻類や苔類、近年になって海産無脊椎動物、ごく最近ではヒトを含むほ乳類にも存在すると報告されている。一方、精子の立場で考えると、オス生殖器官から排出された精子は、直ちに卵に向かうことを一義的な行動性質とせず、精子貯蔵器官に蓄えられたり、あるいは他の精子を援護したり、妨害したりすることもある。これは生物種が創出した多様な生殖戦略行動に対する適応放散の1つと考えられる。このような複雑な精子行動が如何なる規範(環境条件)に基づき意志決定・実行されているかほとんど分かっていない。とくに精子進化理論で最近注目されてきた「競争下における協調行動(血縁選択)」は、今のところなんら実証する手がかりを持っていない。我々は日本ヤリイカ雄の受精能をもつ精子に形態的2型(鞭毛長の違い)と行動的2型(呼吸CO2による自己集合能の有無)があること、さらにそれらがオス生殖行動戦略に結びついた形質であることを見つけた。形態と機能に関する2型発見以降、精子自己集合のメカニズムを調べ、精子細胞膜に発現する二酸化酸素のセンサー分子をクローニングした。集合において、微小環境に形成される化学勾配と、それを完治し、イオンに変換する膜センサーと、さらには細胞外情報が如何に細胞内へ伝わり最終的に鞭毛運動の変換をもたらすかの一連のシグナル経路モデルを打ち立てた。卵を誘引源とする精子走化性との相違点、自己集合の生理的意義、味覚受容との類似性、さらにイカ類の生殖様式と自己集合形質の適応進化について研究を進めている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
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