公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
アルツハイマー病の原因タンパク質のひとつであるタウタンパク質は天然変性タンパク質であり、過剰なリン酸化に伴う構造転移により凝集化し蓄積する。ところが、最近の研究から、プロリン異性化酵素のPin1はタウタンパク質の凝集化を阻害することがわかってきた。おそらくPin1によるプロリンペプチド結合の異性化反応にタウタンパク質の凝集を抑制する効果があると想像されるが、どのような機構でPin1がタウタンパク質の凝集化を阻害するのかということについては、ほとんどわかっていない。そこで、本研究では、タウタンパク質の過剰なリン酸化による構造転移とPin1の機能の問題に焦点を絞り、以下に設定した問題に取り組んだ。(1)タウタンパク質の17箇所のリン酸化部位のそれぞれとpin1との相互作用の解析。(2)Pin1との相互作用がもたらすタウタンパク質の構造転移の解析。(3)Pin1との相互作用の前後でのタウタンパク質の凝集特性の解析。昨年度から本年度にかけて、まず、当初計画の17箇所を含む総計117種類の合成ペプチドを用いて、タウタンパク質の全長を対象にPin1によって認識される部位の絞り込みをおこなってきた。この成果を踏まえ、本年度後半では、Pin1による認識部位のひとつS235-P236を含む45残基からなるタウペプチドを対象に、その凝集化に対するPin1の作用を蛍光消光法及び動的光散乱法によって解析した。その結果、確かにPin1の存在下でタウペプチドの凝集が軽減されるのを観測した。このことは、Pin1とタウタンパク質との直接的な相互作用が凝集化を阻害することを示唆している。ごく最近、Pin1によるタウタンパク質の凝集抑制作用が間接的なものであるとの報告が海外の研究グループからなされたが、本研究は、直接的な抑制作用の存在を示した。
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