公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
上皮成長因子受容体(EGFR)分子認識ドメインの構造ダイナミクスを1分子解析し、細胞内情報処理における役割の理解を目指して研究を行った。EGFRはチロシンキナーゼ型細胞膜受容体であり、天然変性状態にある細胞質末端約220アミノ酸残基の分子認識ドメインで細胞質蛋白質と多状態相互作用する。本研究では、分子認識ドメインの構造分布と構造状態遷移ダイナミクスを、蛍光相関分光計測(FCS)および2チャンネルタイムスタンプ法による単一分子内FRET検出を用いて計測した。大腸菌でリコンビナント精製した分子認識ドメインのアミノ末端を蛍光色素Alexa488で標識し、FCS計測したところ、溶液中で単量体として自由拡散運動し、有効半径は5.3nmであることが示された。既存の蛋白質データの半径と分子密度の関係と比較し、分子認識ドメインはほとんど変性状態にあることが予想された。アミノ末端から約70残基の位置にあるシステインを蛍光色素Alexa555でさらに標識し、アミノ末端のAlexa488との間で分子内FRET計測を行った。溶液中の1分子計測では、一部の分子群にエネルギー移動効率0.3を中心とする広い範囲のFRET信号が得られた。これは分子の構造分布が広がっていることを示し、構造状態がエントロピックに安定化していること、すなわちランダムコイル状態(変性状態)であることを示唆している。カルボキシ末端に導入したヒスチジンタグを用いて分子を基盤に固定し、1分子のFRET効率変化を5msの時間分解能で計測したところ、分子ごとに異なった効率を示すものの、個々の分子の構造は数秒にわたってほぼ一定していることが示された。多数分子の平均分布は溶液中と一致していた。まれに2状態転移を示す分子が観察された。分子認識ドメインの構造多状態性は、認識相手との多状態相互作用の分子基盤となっていると考えられる。
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