研究概要 |
社会のすべての構成員が,公平で効率的な保健医療サービスが受けることができるような保健医療制度を構築するために,医療保険の創設や改革に必要な社会的条件を,保険に関与する保険者・被保険者・医療従事者・政府などをプレーヤーと考え,ゲーム理論的に分析することにより明らかにすることを目的に本研究を実施した。 本年度は,昨年度分の研究で作成した医療保険の基本モデルをベースに,特に,社会格差と医療保険の負担を巡るゲーム理論的分析に焦点を当ててモデルの作成と分析・検討を行った。このモデルは,高所得者層と低所得者層の医療保険(全般的な所得再配分政策を含む)を巡る利害関係を整理し,もっとも単純なゲーム理論モデルとなっている。ここで,高所得者の基本的な戦略は,「社会的連帯重視」か「自己責任重視」か,低所得者の基本的な戦略は「抗議」か「受容」か,に集約できると考えている。利得設定の詳細にもよるが,分析結果によれば,高所得者の「社会的連帯」と低所得者の「受容」が安定的に実現することは困難であると考えられた。したがって,高所得者の「社会的連帯」と低所得者の「受容」を安定的に実現するためには利得調整のための別のメカニズムが必要と考えられた。 米国では、公的な医療保険の実現が簡単に進まない現実や,「競争」が医療の質的向上に結びつかない理由について文献的ならびに聞き取りによる調査を行い、不十分ながら上のモデルで部分的には説明できると考えられた。
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