研究領域 | 出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22H04448
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
人文・社会系
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
相馬 拓也 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (60779114)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 草原シルクロード / 伝統知(TEK) / オーラルヒストリー / 生存戦略 / 遊牧民 / シルクロード / 草原適応 / イシククル湖 / キルギス / 狩猟伝承 / ニッチ構築 / オオカミ狩り / 中央ユーラシア / 遊牧社会 / 草原文明 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、モンゴル~キルギス~カザフスタンの草原世界に暮らす遊牧民の伝統知の継承と実践が、草原適応、災害対処、コミュニティ持続性などに果たした役割から、人類史上の生存戦略の意義を探求する。前回公募研究の進展により、「草原の伝統知」の継承性と非文字的記録のドキュメンテーションが、遊牧コミュニティの解明のみならず、人類初現の生存戦略とレジリエンス機能を紐解き、出ユーラシア研究に新たな視座を提供できるとの確信を得た。本課題は、「出ユーラシア研究」の要請する「文明形成」のエビデンスに、個別具体の民族誌の提示によって貢献する。「草原の伝統知」の継承・実践の意義から、人類の生存戦略を学知融合で探求する。
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研究実績の概要 |
初年度2022年度(R4年度)は、キルギス北東部イシククル湖周辺のコクサイ村、カラコル、ナリン州アトバシュ村などで、牧畜民の家畜防衛・災害対処・薬草利用・狩猟・水源・牧草地利用などのオーラルヒストリーの記録収集フィールド調査を実施した。 山岳適応の事例の一つとして、イシククル北部のグレゴリエフカ村で、鷹匠とイーグルハンター5名を対象としたエスノグラフィの参与観察を実施した。モンゴルやカザフスタンの騎馬鷹狩ではイヌワシを馴致することがほとんどだが、キルギスではイヌワシをはじめ、オオタカとハヤブサの飼育も実践されるなど、馴致猛禽の多様性が見られた。東アジアの鷹狩文化のなかでも、イヌワシ、オオタカ、ハヤブサの3種を馴致する文化は現在、唯一キルギスのみに残ると考えられる。 フィールド調査の一環として、現在も中央ユーラシアで盛んな狩猟活動の民族誌調査を進めている。これまでイシククル湖南部一帯で、例年冬のオオカミ狩りへの参加や、地元ハンターによる狩猟経験のインタビュー、牧畜民への狩猟伝承のドキュメンテーションを実施した。同地のバイボースン自然保護区では、ユキヒョウの生態観察調査をはじめ、ユキヒョウにまつわる民俗・伝説・オーラルヒストリー・狩猟伝承が収集された。 キルギスとカザフスタンの牧畜コミュニティの調査からは、限られた域内資源を活用し、かつ家畜飼養・鷹狩・ハンティングなどの伝統知の蓄積・実践・伝達による環境適応戦略が看取された。これは、「非文字的コミュニケーションによる文明形成の知的資源」であり、伝統知が遊牧民とコミュニティの生存戦略に果たした役割を紐解くカギになると考えられる。天山山脈のキルギス牧畜社会での家畜飼養と狩猟実践の調査により、人類の生存圏の確立やニッチ構築の核心に迫る民族誌情報を部分的に得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度(R4年度)は、海外渡航制限の緩和により、当初計画を上回る50日間以上のフィールド調査を、キルギスとカザフスタンで実施することができた。ただし、モンゴルは制限緩和後も、遠隔地に外国人来訪による感染拡大への恐怖や排除の動きがあったため、当該年度は断念した。とくに年度前半期、キルギスでは中央アジア=アメリカン大学、トルコ=マナス大学、キルギス科学アカデミー、アルファラビ=カザフ国立大学、との協働体制を確立したことで、データ収集とアウトプット機会が飛躍的に向上した。
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今後の研究の推進方策 |
代表者によって、現地活動地の研究所・高等教育機関をはじめ、専門家や学生、カウンターパートとの高度な連携体制が確立されている。そのため、今後は日本にいながらシームレスなデータ収集と分析を共有する。次年度には、キルギスの共同研究者と共著で、2度の国際学会で成果報告も予定されている。 また研究活動では、研究者のみならず、学生・院生などの動員を積極的に進めている。本研究の遂行が現地のユース・エンパワメントに直結し、若者たちのフィールド調査や研究活動への参加機会を後押しするスキームを確立しつつある。
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