研究領域 | 出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
22H04455
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
人文・社会系
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
嘉幡 茂 京都外国語大学, 京都外国語大学ラテンアメリカ研究センター, 客員研究員 (60585066)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | メソアメリカ / 水 / 世界観 / シンボリズム / 神 / 認知考古学 / 湖畔遺跡 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、メキシコの古代社会において、各集団を統合した水のシンボリズムとその表象内容に着目し、複雑化社会へと至る従来の見解に新たなデータと知見を示すことにある。水のシンボルは都市の形成過程の中で体系化され、信仰の一つになったと先行研究は指摘する。しかしこのシンボル化は、都市部だけでなく、周縁部(特に湖畔地域)においても行われていた。水のシンボルは、メソアメリカの様々な自然環境やこれに順応した多様な生業形態の中から、独自の過程を経て地域レベルで誕生したと推測できる。今まで考慮されなかった湖畔遺跡における水のシンボリズムを理解することで、複雑化社会の過程をより総合的に解明する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、古代メキシコで社会統合の文化要素として機能した水のシンボリズムとその表象内容の多様性・多義性に着目し、複雑化社会へと至る従来の見解に新たなデータと知見を示すことにある。水のシンボルは都市の形成過程の中で体系化されたと先行研究は指摘する。しかし、研究代表者の研究から、水のシンボル化は都市の萌芽よりも前に実践されており、むしろシンボル化の成功が都市化を促進させたことが判明した。 令和4年度は、水のシンボル化と都市化の関係性を理解するため、メキシコ現地で発掘調査を実施し、貴重なデータを得ることができた。トラランカレカ遺跡のピラミッド(「大基壇」;約85m×約85m×残存高10.2m;後100~300年頃)から、大規模な貯水・給水システムが検出された。さらに、この水源はピラミッドの頂上部にあったことが推測できた。貯水・給水システムは、当時の最新技術で設置されていたことも判明した。これらのデータは、ピラミッドの機能が多様であったことを表すと共に、ピラミッドを通して水がシンボル化され、信仰の対象となっていたことを物語るだろう。 これに加え、貯水・給水システムで終結儀礼が行われた点も重要である。直方体型の貯水システムには水を貯蔵するために約20cmの高低差がある。まず、底面から砂層は検出されなかった。次に、高低差のある縁のみが丁寧に破壊されていた。また、水を給水する給水口も壊され、その中心部に石灰の石板が埋納されていた。貯水・給水システムとして機能したピラミッドの放棄がトラランカレカ社会全体の衰退時期と一致する点、そして、これ以降の社会では同様のピラミッドが存在しない点も考慮すると、当該社会における水をシンボル化したピラミッドへの信仰とその実践方法は、この時代(形成期から古典期への移行期)に衰退したことを示す。水のシンボル化と都市の盛衰を議論する貴重なデータであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書の作成段階では、エル・コレヒオ・メヒケンセ大学に所属する研究者と共同で本課題研究を進める予定であった。そのため2022年9月まで協議を重ねてきたが、調査方針や調査区の選定並びに予算配分において合意に達することができなかった。その結果、調査遺跡を変更せざるを得なくなった。そのような状況ではあったが、他の研究協力者の協力により、10月11月そして2月に考古学調査を実施することが可能となり、上記の【研究実績の概要】で述べた成果を上げることができた。一方で、民族史学と民族学からの情報収集が若干遅れているため、次年度はこの活動も積極的に行う。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の課題AとBの解明に取り組みながら結論を導き出す。 【課題A:古代メソアメリカ文明の水のシンボル化に関する研究】 民族史学と民族学からの情報収集:古代メソアメリカ社会がスペイン人によって征服された後、数多くのクロニカが記されており、ここから水に関連する古代人の思想や儀礼などについての情報を収集する。これらは、次の発掘調査で獲得するデータを解釈する際の補助とする。 発掘調査(トラランカレカ遺跡でのトレンチ調査):現在までの調査により、トラランカレカ(前800~後300年)では9カ所の建築複合が確認されている。前800年頃、遺跡の東端の「地下水の沸く洞窟」の入り口に祭壇が築かれ、ここを中心に集落が形成された。しかし、後の時代に認められる大型建造物は存在せず、自然景観を利用し人々は生活していた。この祭壇周辺とその東にある広場で発掘調査(調査面積約20m×10m)を行う。この調査区からは、儀礼が行われた痕跡として遺物や炭化物の出土が予想される。土器型式とC14年代測定から祭壇と広場の機能と時期を考察する。また、どのような儀礼を行っていたのか、そしてこれがどのように水への信仰そしてそのシンボル化と関連するのかを知るため、床面から土壌を回収し分析する。同時に、「大基壇」でのトレンチ調査も実施する。この建造物からは、頂上部から上水施設、そして権力集団と水を象徴する土製仮面が検出されている。より多くのデータを収集し、水と権力集団の関係についての解明を進める。 【課題B:観念体系の成熟と技術の発達、そして芸術様式の確立に関する研究】 【課題A】の解明と同様に、発掘調査から出土する遺物の肉眼分析、そして当該遺跡で表面採集調査(主に土器や土製品)を行い、上記の課題の解明に取り組む。考古遺物の国外持ち出しには特別な許可が必要であり、分析対象の遺物は莫大となるため、作業はメキシコで行う。
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