研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04462
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平井 大悟郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (80734780)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | スピン液晶 / スピン軌道相互作用 / 5d電子系 / ダブルペロブスカイト / レニウム化合物 / 多極子秩序 / 四極子秩序 / 分子軌道 / 金属絶縁体転移 |
研究開始時の研究の概要 |
0.5 電子ボルトもの SOI が働く 5d 電子系では、スピンと軌道の自由度が結合し多彩な量子相が発現します。その1つがスピンネマティック相であり、いくつかの 5d 化合物で兆候が確認されていますが、この液晶状態の秩序変数や外場応答などは明らかでありません。本研究では、5d 化合物を対象とした集中的な物質開発によってスピンネマティック物質を開拓するとともに、申請者らがすでに量子液晶状態の兆候をとらえている物質に対する詳細な測定から特徴的な性質の解明を進め、スピン軌道結合電子系における量子液晶の物理の構築を目指します。
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研究実績の概要 |
本研究は、5d 遷移金属酸化物の物質開発により、強いスピン軌道相互作用(SOI)のもとで発現する量子液晶状態を探索し、その特性の解明を目指します。温度に換算すると5000度にも達するSOI が働く 5d 電子系では、スピンと軌道の自由度が結合し多彩な量子相が発現します。その1つがスピンネマティック相であり、近年実験でもその存在が確認されていますが、その性質についてはまだよくわかっていません。そこで、2022年度は申請者らがすでに量子液晶状態の兆候をとらえているBa2MgReO6という物質に対する詳細な測定から特徴的な性質の解明を進めました。 Ba2MgReO6に圧力を印加した時の電子状態変化を明らかにするために圧力下の磁化・比熱測定を行いました。その結果、4万気圧以上の圧力においてスピンネマティック相が消失し、同時に磁気秩序が強磁性的から反強磁性的な振る舞いに変化することが明らかになりました。これは、スピンネマティック相と強磁性的磁気秩序が強く相関していることを示します。また、圧力印加効果は、Mgサイトにより大きなイオンを置換した時の振る舞いと類似しており、両者の関連性に興味がもたれます。 また、4d遷移金属を含むRuPが300 K付近で金属から急激に絶縁体へと変化する相転移の起源を詳細な結晶構造の解析により明らかにしたところ、結晶中でRu原子が3つ整列する新しいタイプの分子が形成されることが明らかになりました。結晶構造の温度変化を詳しく調べた結果、相転移よりも高温の金属状態でも分子が出来かけており、ちょうど液晶のような状態であることが分かりました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、5d 遷移金属酸化物の物質開発により、強いスピン軌道相互作用(SOI)のもとで発現する量子液晶状態を探索し、その特性の解明を目指します。2022年度は申請者らがすでに量子液晶状態の兆候をとらえているBa2MgReO6という物質に対して圧力を印加して、どのような電子状態が発現するかを検証しました。圧力下の測定で一般的に用いられる電気抵抗率測定ではスピンネマティック相や磁気秩序相の変化を捉えることが出来ないため、比較的難しい圧力下の磁化・比熱測定を、10万気圧を超える圧力領域まで行いました。この結果、測定系の改良によりこれらの相転移の変化を観測することに成功しました。圧力実験によって、低温の磁気状態が強磁性から反強磁性的に変化することと、強磁性相の高温のみにスピンネマティック相が出現することを明らかにしました。当初計画していた圧力に対する応答が明らかになり、元素置換効果との関連性があることもわかってきました。 また、RuPの金属―絶縁体転移を調べた結果、転移よりも高温の金属相において分子が揺らいでいる液晶状態を示唆する結果を得ました。この液晶相は当初本研究で対象として想定していたスピンネマティック相とは異なる量子液晶状態であり、どのような電気、磁気、熱的性質を持つのかに興味がもたれます。さらに、Ba2MgReO6におけるスピンネマティック相とこの量子液晶相を比較することで、量子液晶に共通する性質などが明らかになると期待されます。このように、当初の計画通りに順調に研究が進められています。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度のBa2MgReO6に対する圧力実験によって、圧力の印加でスピンネマティック相が抑制されることが明らかになりました。この振る舞いはMgサイトによりイオン半径の大きな2価のイオンを置換した時の化学圧力効果と同様の振る舞いです。圧力実験では、相が切り替わる圧力が4万気圧程度と高圧だったため、詳細な検証が困難でした。今後、化学置換によって、ちょうどスピンネマティック相が完全に抑制される状態を常圧で実現し、境界付近の振る舞いや、臨界現象などを明らかにします。 これまでの研究で、5d1の電子配置をもつ物質については、どのような領域でスピンネマティック相が出現するかが明らかになりつつあるので、今後5d2の電子配置をもつ物質へと領域を拡げます。具体的な物質としてはBa2YReO6やBa2LuReO6がありますが、過去の物性報告では研究グループによって異なる実験結果が報告されており、合成条件によって物性が変化している可能性があります。詳細な結晶構造解析、組成分析を行い、結晶構造と物性の相関を確立していきたいと思います。 2022年度に新たに発見した、RuPにおける量子液晶状態についてもその物性について詳しい測定を行います。電気抵抗率、磁化率、熱伝導度測定により、電気的・磁気的・熱的性質を明らかにします。さらに、圧力下の電気抵抗率、X線回折実験を行い圧力に対する応答も調べます。以上から、新たに見つかった量子液晶状態の性質を明らかにし、スピンネマティック相との共通点や相違点を明らかにすることを目指します。
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