研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04473
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
米澤 進吾 京都大学, 工学研究科, 教授 (30523584)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | カイラル超伝導 / 量子液晶 / 磁気光学カー効果 / 鉄系超電導 / ボゴロンフェルミ面 / 時間反転対称性の破れ / 鉄セレン超伝導体 / カゴメ格子金属 / ウルトラノーダル超伝導 / ボゴリウボフ準粒子フェルミ面 / ネマティック電子流体 / ボゴリウボフフェルミ面 |
研究開始時の研究の概要 |
時間反転対称性の破れとは「仮想的に時間を逆回しにしたときに違った状態に見える」ことであり、強磁性など自発磁化が生じている状態に対応する。硫黄を添加したFeSe系では、時間反転対称性の破れを伴う「ウルトラノーダル」超伝導という非常に珍しい超伝導が実現していると考えられており、それが電子液晶によって形成されていると考えられている。本研究では超伝導の時間反転対称性破れを実験室レベルで確認できる唯一の方法である超高分解能磁気的カー効果測定を用いて、硫黄添加FeSe系における超伝導の時間反転対称性の破れと電子液晶が持つ回転対称性の破れの関係性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、電子液晶が形成する新奇な超伝導状態における時間反転対称性の破れを、磁気光学カー効果を利用して超高感度に測定することを目指している。特に、電子液晶超伝導体Fe(Se,S)では、超伝導状態における時間反転対称性の破れが、ボゴリウボフ準粒子がフェルミ面を持つという「ウルトラノーダル」超伝導の基礎付けとなるため非常に重要である。他にも、前期公募研究に引き続き、量子液晶のもつ典型的性質である空間回転対称性の破れ(ネマティシティー)を検出・制御する研究も継続した。 まず、カゴメ格子を持つ金属CsV3Sb5に対して行ってきた高感度磁気光学カー効果の研究を継続しながら、論文執筆に取り組んだ。この物質は94Kで電荷秩序、3Kで超伝導を示すが、我々は電荷秩序相において時間反転対称性が破れていることを示す結果を得た。この論文は雑誌に投稿し、プレプリントサーバーにもアップロードした(https://arxiv.org/abs/2208.08036)。その後、他グループから異なる実験結果も報告されたため、現在は実験結果を精査し再投稿に向けて作業を進めている。Fe(Se,S)については超伝導状態における測定を進めたが、液体ヘリウム代の高騰によりマシンタイムが十分に得られなかったので、本年度はこの物質の実験に注力する。 ほかに、CsV3Sb5に関しては、ベクトル磁場印加装置を用い、磁場方向制御下での比熱測定を超伝導状態において行った。その結果、上部臨界磁場が非自明な6回振動と2回振動を示すことを明らかにし、回転対称性を破った特異な超伝導秩序変数の実現を示した(https://arxiv.org/abs/2303.11072)。 また、一軸ひずみを用いたSr2RuO4の超伝導ネマティシティーの研究や、磁性体における新奇なネマティックひずみ応答、新トポロジカル超伝導体の研究などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、量子液晶の示す時間反転対称性や空間回転対称性を検出・制御する研究を順調に進めつつある。特に、磁気光学カー効果測定に関しては、通常の測定だけでなく、走査型測定に関してもめどが立ちつつあり、カイラル超伝導だけでなくそれが形成するカイラルドメイン構造を可視化するという方向にも研究が進められつつある。一方、本計画の最大のターゲットであるFe(Se,S)に関してはまだ十分に実験時間が確保できていないので、本年度はその研究を中心的に進める。 また、光測定以外にも、回転対称性の破れを検出する比熱測定実験やひずみ測定実験実験において新奇な効果をそれぞれ見出しつつあり、学会発表などを行ってきた。これらに関しても年度内に論文にまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は特にFe(Se,S)の磁気光学カー効果の測定実験を進めつつ、走査型測定などへの拡張も進め、カイラル超伝導を検出するだけでなく、カイラルドメインの可視化にもチャレンジする。カゴメ格子物質に関しては、現在のデータをもとに論文化を進める。ひずみ応答に関しても興味深い結果が出ているので、実験を進めて年度内の論文化を目指す。一軸圧測定は担当する学生が卒業してしまったが、豊田-京大連携拠点との共同研究として継続する。 なお、代表者が4月に理学研究科から工学研究科へ異動したため、4月から6月にかけては装置の移転などで低温実験ができない状況にある。この移転に研究費のある程度の割合を用いる必要がある。移転期間の間は、走査型測定技術の開発など室温でできる実験や、データの解析などを進める。
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