研究領域 | 量子液晶の物性科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04480
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水島 健 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (50379707)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 超伝導 / 量子液晶 / 非平衡現象 / 対密度波 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、トポロジー・揺らぎ・非線形効果といった多角的視点から 『超伝導液晶秩序』に由来した普遍的な非平衡現象を抽出することである。超伝導液晶の例として、中性子星内部に現れるネマティック超流動や、超流動3He薄膜中に存在する対密度波などがあげられる。これらの系は高い対称性を持つため、そこに生じる液晶秩序は豊かな内部自由度やトポロジーを内包する。本課題では、 内部自由度に由来する豊富な揺らぎが対密度波の長距離秩序に与える影響や、液晶秩序に固有のトポロジカル励起のダイナミクスを調べる。加えて、高強度の光渦レーザーを利用し、超伝導液晶固有の非線形光学現象やトポロジカル励起の高速生成を探求する。
|
研究実績の概要 |
2022年度は、(1)光渦を用いた超伝導の非線形ダイナミクスと(2)制限空間中の超流動3Heにおける超流動対密度波(PDW)状態に関する研究を行なった。光渦とは軌道角運動量をもつ光である。近年、テラヘルツ周波数帯での光渦が実現され、物性研究へと応用されつつある。例えば、磁性体での軌道角運動量による二色性の観測などが報告され、物性研究における新しいプローブとして注目が集まっている。我々は、光渦による超伝導の非線形光学応答を調べることで、光の軌道角運動量が非線形Higgs励起や高次高調波発生などへどのような影響を与えるかについて調べた。非相対論的なHiggs模型の数値シミュレーションを行うことで、有限の軌道角運動量を持つ光が超伝導薄膜や超伝導表面にプラズマ振動を励起することがわかった。このプラズマ振動の強度は光の軌道角運動量によって増幅される。さらに、このプラズマ振動モードを介して、非線形Higgs励起も光の軌道角運動量によって増幅されることがわかった。我々の研究成果により、光の持つ軌道角運動量によって、従来のガウス光では見られない新しい非線形光学応答が明らかとなった。 さらに、制限空間中の超流動3HeにおけるPDW状態に関する研究も行なった。低温領域ではSO(2)対称性を持つBW状態が安定化するが、高温領域では秩序変数が空間変調するPDW状態が安定となることがわかった。PDW状態には、秩序変数が1次元的に空間変調したストライプ状態と、2次元的な格子構造を持つ2次元PDW状態が競合する。特に、後者では、BW状態のSO(2)対称性が離散的な点群対称性へと自発的に低下し、D2, D4, D6対称性な結晶秩序を持つ超流動状態が実現することがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、光渦を用いた超伝導ダイナミクスと、制限空間中の超流動3Heにおける超流動対密度波(PDW)状態に関する研究に一定の成果が得られた。前者については、Higgs模型という有効模型を用いて、薄膜や表面でのプラズマ励起や非線形Higgs励起の増幅といった、光の持つ軌道角運動量に由来した新しい超伝導非線形光学応答が明らかとなった。これらの成果は現在、論文としてまとめている。また、微視的ハミルトニアンの非線形応答計算も行っており、有効模型では記述できなかった準粒子の寄与や常磁性電流応答などを含めた計算を行っている。微視的理論計算でも、Higgs模型から得られる結果を定性的に再現することがわかった。現在は、Higgs励起を媒介にした非線形光学応答と準粒子の寄与を定量的に比較し、それらの軌道角運動量依存性などを調べており、当初の研究計画通りに順調に進展している。さらに、2022年度には、制限空間中の超流動3HeにおけるPDW状態についての新しい知見が得られた。様々な結晶秩序を持つ超流動状態(2次元PDW)状態が存在することがわかり、その結果を現在論文としてまとめている。さらに2022年度には、PDW超流動状態と類似した、FFLO超伝導状態の集団励起の研究へ向けた定式化と数値計算プログラムの準備を行なった。2023年度の研究計画では、FFLO超伝導の集団励起や動的帯磁率など観測量への影響などを明らかにしていく予定であるが、2022年度には順調にそのための準備ができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は以下の3点について研究を行う。(1)光渦による超伝導の非線形光学応答についての微視的理論計算。(2)制限空間中の超流動3Heにおける結晶秩序を持つPDW状態の生成機構と熱揺らぎの効果。(3)FFLO超伝導の集団励起。(1)については、すでにある程度の知見を得つつある。2022年度に有効模型の数値シミュレーションにより得られた、薄膜や表面でのプラズマ励起や非線形Higgs励起の増幅といった、光の持つ軌道角運動量に由来した新しい超伝導非線形光学応答が微視的理論でも再現されることがわかった。今後は、非線形Higgs励起と準粒子励起による高次高調波発生への寄与を定量的に比較し、それらが光渦の軌道角運動量によってどのように変化するかを明らかにする。(2)については、2022年度の成果で、制限空間中のある温度領域では2次元PDW状態が1次元的な空間変調を持つストライプ状態と競合することがわかった。しかしながら、この温度領域では熱揺らぎの効果が無視できないため、PDW状態の生成機構や安定性に対する熱揺らぎの効果を調べる。さらに、(3)ではFFLO超伝導状態の集団励起を計算し、動的帯磁率など観測量への影響を明らかにする。FFLO超伝導状態は周期的に空間変調した秩序変数を持つ。これは、ソリトン(キンク)格子構造を持ち、秩序変数の位相モード(南部ゴールドストーンモード)や振幅モード(Higgsモード)以外にも、ソリトン間の弾性振動モードなどが低励起に存在する。このようなFFLO超伝導固有の弾性振動モードの影響が動的帯磁率など観測量にどのように現れるかを明らかにする。
|