研究領域 | 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot |
研究課題/領域番号 |
22H04492
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
辻野 智紀 気象庁気象研究所, 台風・災害気象研究部, 研究官 (00899148)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 気象学 / 台風 / 数値実験 |
研究開始時の研究の概要 |
低緯度の海洋上で発達した台風は、中緯度に移動するとともに、温帯低気圧に構造を変化させる(温帯低気圧化)。温帯低気圧化における台風の構造変化は、台風のエネルギー源である海面からの水蒸気供給の減少、温帯低気圧のエネルギー源である中緯度ジェット気流によってもたらされると考えられている。本研究では、積乱雲を直接表現可能な、台風のコンピュータシミュレーションを用いて、台風の温帯低気圧化における低気圧構造の変化過程の定量的かつ包括的なメカニズム(台風構造の衰退、温帯低気圧構造の強化)及び、温暖化した大気海洋環境場が温帯低気圧化過程の変質に与える影響を解明する。
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研究実績の概要 |
2019年に日本に上陸し、その後温帯低気圧化した台風第15号(令和元年房総半島台風)および第19号(令和元年東日本台風)について、大気の運動を予測する数値モデル(気象庁気象研究所の asuca および名古屋大学の CReSS)を用いた水平格子間隔1kmの数値実験を実施した。両事例での数値実験結果は、温帯低気圧化後の温帯低気圧としての強度変化(すなわち、第15号は発達せずに衰退、第19号は再発達)の特徴をよく再現した。台風周辺の環境場(偏西風の強さや海面水温分布)を比較し、両事例での強度変化の違いを引き起こしうる要因を調査した。第15号は台風渦の水平スケールが小さく、中緯度偏西風が北に位置する状況であるのに対し、第19号は台風渦の水平スケールが大きく、中緯度偏西風がより南に位置する状況であり、これらが温帯低気圧化時の強度変化に差を生んだと考えられる。 第19号の台風構造の衰退、温帯低気圧構造の形成過程を解明するために、数値実験データを用いて大気の運動、熱力学方程式の解析を実施した。第19号の温帯低気圧化時には、典型的な台風と異なり、進行方向左側の海面付近に強風が形成され、これが台風構造の崩壊を引き起こすことを示した。下層の強風の形成要因を解明するため、要因と考えられる要素を除去した追加の数値実験(感度実験)を実施し、新しく作成したソフトウェアプログラムを用いて数値実験データから強風形成要因を解析した。 上記の解析を実施するワークステーションおよび数値実験結果を保存するためのストレージ環境を構築した。 数値実験およびデータ解析結果を、温帯低気圧化に伴う低気圧構造変化のメカニズムとしてまとめ、日本気象学会秋季大会をはじめとする研究集会にて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
温帯低気圧化後に異なる強度変化を示した台風第15号(令和元年房総半島台風)および第19号(令和元年東日本台風)を対象とした数値実験は、目標としていた水平解像度設定によって予定どおり実施できた。両事例の比較や温帯低気圧化時の台風構造変化過程についての解析も当初の想定どおりに実施できた。 データ解析のためのワークステーションおよびストレージ環境構築は当初の予定どおり実施できた。 実験結果をまとめた学会発表は当初の予定どおり実施できた。 一方、第19号の台風構造の衰退、温帯低気圧構造の形成過程を解明するために実施した解析結果から、追加の感度実験および新規のデータ解析プログラムの作成が必要となった。これらは本課題の主目標である温帯低気圧化過程の解明に必要不可欠であり、その実験および解析結果は学術論文としてまとめる際の定量的な根拠資料を提供する。これらの対応に時間を要したため、学術論文の作成が当初より遅れている。特に、電気代高騰および節電要請による大規模計算機システムの縮退運転の影響により、追加の数値実験が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は擬似温暖化実験を実施し、将来の温暖化した大気、海洋環境場における台風温帯低気圧化過程の変質を調査する。擬似温暖化実験とは、温暖化シナリオにもとづく気候シミュレーション結果から、将来と現在の平均的な大気、海洋場の差分を、現実台風の再現実験に用いる初期値に足し合わせる手法である。具体的には、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 報告書に貢献している温暖化気候シミュレーションプロジェクト Coupled Model Intercomparison Project phase6 (CMIP6) データをダウンロードし、初期値に加える大気、海洋場の温暖化差分を作成する。昨年度実施した数値実験の事例(台風第15号および19号)を対象に、同じ設定(水平解像度 1 km)の数値大気モデル(気象庁気象研究所 asuca および名古屋大学 CReSS)を用いた擬似温暖化実験を実施する。 温暖化した環境場における台風温帯低気圧化時の構造変化を定量的に解析するため、昨年度と同様の解析を擬似温暖化実験についても実施する。温帯低気圧化後の強度変化の異なる2つの事例に対して定量評価、比較することで、温暖化した環境場での温帯低気圧化時の構造変化過程の変質を解明する。 以上の結果を、温暖化した大気、海洋環境場における温帯低気圧化に伴う低気圧構造変化のメカニズムとしてまとめ、学術論文として投稿する。 大規模計算機システムにおける擬似温暖化実験の実施期間中は、並行して昨年度に実施した研究結果に基づく学術論文を作成する。
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