研究領域 | 機能コアの材料科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04496
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉本 宜昭 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00432518)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
原子1つ分の厚みしかない物質である単原子層物質が、次世代デバイスの材料として期待されている。シリコンの単原子層物質であるシリセンが、既存のシリコンテクノロジーとの親和性の良さから注目されている。シリセンは、原子がハニカム格子を組んでおり、線形のバンド分散を持つため、高移動度な電子デバイスとして期待されている。シリセンで様々な異種元素を配列させて、その局所状態を評価し機能発現への指針を得ることを目的とする。
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研究実績の概要 |
シリコンの単原子層物質であるシリセンは、座屈したハニカム構造を有し、その結果として線形なバンド分散を持つ二次元トポロジカル絶縁体となる。その新奇な特徴を活かしたデバイスの開発が期待されている。単原子層物質に、多様な機能を付与するために、異種元素のドーピングが有効である。単原子層物質中に異種元素を原子レベルで自在配列させることが可能になれば、配列・評価・理論計算のサイクルによって新奇な機能の発現が期待できる。そこで本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)と走査トンネル顕微鏡(STM)の複合装置により、単原子層物質であるシリセンで様々な異種元素を配列させて、その局所状態を評価し、理論との比較により機能発現への指針を得ることを目的とした。今回、シリセンにシリコン原子やゲルマニウム原子を導入して、原子操作によりそれらの原子を自在に配列した。そして、理論計算によって吸着原子によってシリセンの構造がどのように変化するのかを詳細に分析し、電子状態の変化についても明らかにした。一方、領域内の共同研究として、チタン酸ストロンチウムの表面をAFMで分析するために必要な画像化機構の解明を行った。STMと比較してAFMによる酸化物の画像化機構は複雑であることが知られている。実際、チタン酸ストロンチウム表面においてもAFM探針の状態によって、定性的に異なる画像が現れた。像の解釈についてはこれまでよく調べられきた二酸化チタン表面における画像機構と似ていることが判明した。今後、チタン酸ストロンチウム表面上における物理化学反応の研究に展開できる重要な知見を得たといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリセンの上にシリコン原子を吸着した系についてAFM/STMによる実験と理論計算によって、詳細に調べた。シリセンはバックリング構造をとることが知られており、その構造が電子状態と結びついていることが知られている。今回、シリコン原子をシリセンの上に吸着させることによって、シリセンのバックリング構造が変調できることを見出した。具体的にはシリコン原子が周期的に配列しているアイランドにおいては、下地のシリセンが準安定な構造に変化していることを明らかにした。ここでいう準安定な構造とは、シリコン原子を導入する前のシリセンにとって、準安定であることを意味しており、シリコン原子が吸着することによって、その構造が安定化することが分かった。シリセンが面直方向に変位しやすい特徴が顕在化した結果といえる。そのような新しい系において電子状態を計算すると、吸着したシリコン原子に由来するバンドが確認でき、バンドエンジニアリングの観点でも全シリコンデバイスとしての示唆を与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
シリセンはバックリング構造をとるために、シリコン原子の局所的な電子状態がサイトによって異なると期待される。これは、サイトによって化学的な活性度が異なることを意味し、今後ガス吸着などの応用を考えた時に明らかにするべき事項である。そこで、異なるバックボンドの角度を持つシリコン原子によって、活性度がどのように異なるのかを定量的に評価する。AFMの探針を接近させたときに生じる化学結合力を精密に計測して化学状態によって化学結合の生じ方がどのように変わるのかを理論計算との比較によって明らかにする。これによって、バックリングという局所構造が機能コアとして働くその学理を明確にできると考えられる。一方、AFMによる顕微法の研究としても、単一原子の元素分析から、単一原子の化学分析へと発展させることができるという意味においても重要であると考えている。
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