研究領域 | 機能コアの材料科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04500
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
横井 太史 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (00706781)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | リン酸八カルシウム / 機能コア / 蛍光 / ナノ粒子 / イメージング / バイオイメージング / 芳香族カルボン酸 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、蛍光性カルボン酸を置換固溶したリン酸八カルシウムナノ粒子の精密合成、同ナノ粒子の細胞への導入のための表面有機修飾、同ナノ粒子の細胞への導入と細胞内で蛍光バイオイメージングプローブとして機能することの実証を経て、機能コアとして蛍光性カルボン酸を置換固溶したリン酸八カルシウムナノ粒子の蛍光バイオイメージングプローブとしての有用性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
リン酸八カルシウム(OCP)ヒトの骨や歯を構成する無機主成分であるヒドロキシアパタイトの前駆体であると考えられている。OCPは人工骨として利用できるほど生体との高い親和性を有するセラミックス生体材料である。また、OCPは層状構造を持ち、層間にカルボン酸イオンを導入することができる。この性質を利用して、研究代表者はこれまでにOCPに蛍光性カルボン酸を導入することによって生体適合性に優れる蛍光体の作製に成功した。この材料は、現在、蛍光体として利用されているCdSeやPbS量子ドットといった毒性元素を含む蛍光イメージングプローブに代わるバイオフレンドリーな蛍光体になると期待される。 しかしながら、得られた蛍光体粒子のサイズは数マイクロメートルであり、蛍光バイオイメージングプローブとして利用するにはサイズが大きすぎることが課題であった。 そこで、本研究では合成法を抜本的に見直し、合成プロセスを従来の溶解-析出法から共沈法に変更し、高過飽和度環境で短時間で合成を完了させる、すなわち、結晶成長よりも核形成が優先する合成反応系とすることによって蛍光性カルボン酸を導入したOCPナノ粒子の合成を試みた。 その結果、イソフタル酸溶液にリン酸アンモニウム水溶液と酢酸カルシウム溶液を加えて反応させることによって、サブミクロンサイズのイソフタル酸含有OCPの合成に成功した。また、得られた粒子が蛍光性を有することも明らかとなった。 以上の結果から、蛍光性OCPナノ粒子の合成指針を確立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度に実施した研究によってサブミクロンサイズの蛍光性を有するイソフタル酸含有リン酸八カルシウム(OCP)の合成に成功した。このサイズは従来の溶解ー析出法で合成したOCP粒子に比べて1/50であり、本研究で確立した共沈法がカルボン酸含有OCPナノ粒子の合成に極めて有用な手法であることを明らかにすることができた。 また、従来法を用いながらOCPに導入可能な蛍光性カルボン酸の探索を進め、例えば2,5-ピリジンジカルボン酸や4-(カルボキシメチル)安息香酸をOCPに導入でき、蛍光性を発現することが分かった。一方で、OCPに導入可能な芳香族カルボン酸でありながら、同カルボン酸を導入してもOCPが蛍光性を示さない場合があることも分かった(具体的には1,4-フェニレン二酢酸)。蛍光性を示さないカルボン酸は蛍光性を示すカルボン酸に比べてフレキシブルな構造を有することから、光を吸収したとしてもそれが熱振動に変換されてしまい、蛍光を発現しなかったのではないかと考えている。 以上のように、2022年度に実施した研究によって、蛍光性OCPナノ粒子の新しい合成法を確立することができた。さらに、OCPに導入可能なカルボン酸を新たに見出し、それらを導入したOCPの蛍光特性まで明らかにすることができた。これらの知見はOCPを用いたバイオフレンドリーな蛍光バイオイメージングプローブの設計に有用であるだけでなく、OCPの材料科学の発展に貢献するものであり、学術的に大きな意義があると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られたカルボン酸含有リン酸八カルシウム(OCP)の蛍光発現には紫外光での励起が必要であった。紫外光はエネルギーが高いため、細胞や組織へのダメージが懸念される。そのため、より低エネルギー(すなわち長波長)の光で励起できる材料が望ましい。これを実現するためにはより大きな共役系(=芳香環)を有するカルボン酸をOCPに導入する必要がある。そこで、OCPに導入できるこのようなカルボン酸の探索を進める。 一方で、蛍光バイオイメージングプローブとしての応用についても検討する。具体的にはこれまでに得られているイソフタル酸含有OCPナノ粒子を用いて、これの生体環境下における安定性を評価する。もし、安定性が低く、短時間で分解等が生じる場合には、同ナノ粒子表面をシリカなどで被覆して安定化することを検討する。さらに、水溶液に分散した状態で蛍光特性を調べ、pHによって蛍光特性が変化するかどうかを明らかにする。 また、合成した蛍光性OCPを線維芽細胞と共培養することによって同ナノ粒子が細胞に取り込まれるかどうかを調べる。もし取り込まれなかった場合には、合成条件を再検討し、粒子サイズをコントロールして細胞に取り込まれるサイズを明らかにする。またそれと同時に同ナノ粒子が細胞の増殖や分化に与える影響をアパタイトナノ粒子と比較しながら定量的に評価する。 以上で得られた知見を総括し、蛍光性OCPナノ粒子を用いた蛍光バイオイメージングプローブの設計と合成の指針を確立するとともに、同ナノ粒子の生物学的特性を明らかにする。
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