研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04523
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤野 智子 東京大学, 物性研究所, 助教 (70463768)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | ニッケル錯体 / FET / Langmuir-Blodgett法 / アンバイポーラー型半導体 / d/π共役系錯体 / 薄膜 / 有機電界効果トランジスタ / 大気安定性 / アンバイポーラー型半導体材料 / LB膜 / 水圏 |
研究開始時の研究の概要 |
水圏の活用を用いて単分子量d/π共役錯体を薄膜化することで,高移動性のホール・電子輸送(アンバイポーラー)型半導体材料を実現を目指す.新規アニオン性ニッケル錯体の合成・薄膜化の検討により,高秩序な錯体薄膜の構築法を確立する.この手法を多様な電子豊富配位子からなるアニオン性錯体に適用し,錯体薄膜ライブラリを構築してOFETデバイス内半導体層としてのアンバイポーラー型電荷輸送特性を評価する.これらの構造-物性相関研究をもとに,高輸送性発現のための構造を最適化することで,高移動性のアンバイポーラー型薄膜を実現する.
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研究実績の概要 |
正孔と電子の双方を輸送するアンバイポーラー型半導体は、次世代の電子デバイスの鍵となる材料として注目を集めている。特に単分子量材料は、伝導性発現の精度・確度・再現性に富み、 多層から構成される薄膜デバイス内での境界伝導障壁を低減できる理想的材料といえる。しかし、こうした電荷輸送特性の発現には、1)深いLUMO、2)狭いHOMO-LUMOギャップといった厳しい電子的要請を満たす必要があることから、単分子量での実現例はごく限られている。最近、こうした厳しい電子要件を満たす材料としてd/π共役系錯体が注目されている。特に安価な原料から合成ができ、量的供給性にも優れたニッケルジチオレン錯体への期待が高まっており、実際に有機電界効果トランジスタ(OFET)デバイスの半導体層として、大気中で安定駆動するアンバイポーラー型電荷輸送性が確認された。しかしいずれも湾曲した分子構造を示すことから固体中で有効な分子間相互作用が得られず、OFET内での正孔/電子移動度は、ユニポーラー型(p型またはn型)半導体よりも3桁以上も劣っていた。本研究では、平面型の新規d/π共役系錯体を開発し、水圏でも安定駆動する高移動性アンバイポーラー型半導体材料の実現を目指す。優れた溶解性と結晶性を両立するd/π共役錯体薄膜を構築し、従前のアンバイポーラー型半導体材料を凌駕する移動度、安定性、物性再現性を示す新規材料の開発を目指す。さらに、ニッケル錯体アニオン塩が温和な条件下で中性構造へと変換できることに着目した、新しい高秩序性薄膜法の実現も目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
優れたキャリア輸送特性を示す半導体材料を実現するには、高秩序かつ高次元性の積層状態を可能にする高い結晶性と、優れた薄膜加工性を実現させる高い溶解性という、一見矛盾する性質を両立させる必要がある。今年度は、領域内研究者との密な連携によって、こうした条件を満たす新材料をd/π共役系骨格と側鎖の組み合わせの中から探索し、両者を両立させるd/π共役系分子群を見いだした。ここではさらに、側鎖上の炭素の数のわずかな違いによって、単結晶中での積層構造が劇的に変化することを発見した。炭素数が1の置換基を導入したものは1次元的な積層様式をとり、炭素数が2もしくは3の置換基を導入したものはデバイスの安定駆動に有利な2次元的な電子構造を持つヘリングボーン型の積層様式を示した。後者の積層様式は、溶液塗布により構成した数十ナノメートルの厚みの薄膜においても再現され、高秩序な結晶性薄膜の実現に成功した。得られた薄膜を半導体層として挿入した電界効果トランジスタデバイスは、アンバイポーラ型の電荷輸送特性を示し、その性能の指標となるキャリア移動度とオン・オフ比のどちらにおいても高い水準を示しました。これらの性能は、水や酸素を厳しく排除することのない開放環境において示されたものである。高安定・溶液塗布可能・高移動度の新しいアンバイポーラ型半導体材料を実現させることができた。本成果は国際誌J. Am. Chem. Soc.に受理され、Supplementary Coverに選出された。本成果は、水圏機能材料のHPトップページにも掲載いただいている。
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今後の研究の推進方策 |
研究次年度は、水圏中で機能する材料に留まらず、水圏を積極的に活用した水圏薄膜化法の実現を目指す。更なるキャリア輸送特性の向上のためには、膜厚を下げることが重要であり、高秩序性を維持したまま膜厚を低下させるのに水圏を利用することに着想を得たものである。第一期公募研究の際にすでに、ニッケル錯体アニオン塩をLangmuir Blodgett法によって配列させた薄膜が高秩序性を維持しており、かつデバイス塗布した際に適した配向をとることを見出している。これを酸化して中性錯体薄膜として、高移動性・広範囲塗布型薄膜の実現を目指す。
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