研究領域 | 水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成 |
研究課題/領域番号 |
22H04537
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
池田 勝佳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50321899)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 水素結合構造 / テラヘルツ / 界面分光 / 水素結合 / 緩和応答 |
研究開始時の研究の概要 |
水圏機能材料の機能性は、材料表面と接する界面水の構造や動的振る舞いに大きな影響を受ける。界面水の構造を理解するための振動分光計測の試みはこれまでに数多く行われてきたが、界面選択計測法の技術的な制約により、得られる情報が水分子の配向等に限られていた。これに対して最近開発された手法では、1 meVの超低エネルギー振動領域から500 meVの高エネルギー振動領域までの界面情報を一挙に測定可能である。本研究では、この新しい界面選択的振動分光法を利用し、帯電界面における水素結合構造の直接観察を行い、界面水構造の最適化による機能設計に資する知見を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
水圏機能材料において材料と水界面の水和構造を最適化するには、水素結合ネットワークの動的構造情報が現れる10 meV以下の振動領域を界面選択的に測定する必要がある。しかし、従来の「界面選択的」な分光法では、水1分子の個性が支配的な高エネルギー振動領域だけが測定可能であり、水素結合に関する情報を十分に得ることが出来なかった。本研究は、水素結合ネットワークの動的構造を電極と電解質の界面で測定することで、電極反応活性の発現について分子レベルでの理解を深めることを目的に研究を行ってきた。 本年度は、水素発生に対する活性が異なる金電極と白金電極を比較する実験を行い、テラヘルツ領域の水素結合ネットワークに関わる振動ピーク位置が両者で異なることを確認した。その一方で、水素発生電位付近でのスペクトル変化には共通した傾向がみられ、水素発生時には特徴的な水の集団運動(水の配向変化によって生成した水素結合ネットワークの欠陥の動き)が起きている可能性を示唆する結果を得た。また、このような低振動領域の水のスペクトルがどれくらい表面選択的に計測できているのかを実験的に確かめるため、測定用の金電極を真空乾燥した状態でそのまま測定できるように工夫し、水蒸気導入によるスペクトル変化を観測した。この結果、間違いなく表面に吸着した界面水の水素結合状態を測定できていることが実証され、また電気化学計測で用いる電解質の存在は、測定されているスペクトルの特徴には大きな影響を与えていないことも確認できた。 また、領域内共同研究として、水分子の数がよく規定された系での実験を目指して、水分子を内包したフラーレン類の計測も試みた。さらに、本手法を様々な試料に対して適用するため、コアシェル型の金属ナノ粒子の合成も行って、共同研究の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素結合ネットワークの直接観察に必要な低振動エネルギー領域を計測可能な界面選択的振動分光法を使用し、電極表面近傍の界面水のダイナミクスを計測することを試みた。最も測定感度が高いと期待される金電極を用い、得られたスペクトルが電位によって確かに変化することを確認できた。また、このスペクトルが電解質の種類によらないことから、測定結果が間違いなく水の集団運動を反映していることを確認した。特に、水素発生の起こる電位近傍で顕著なスペクトル変化を示すことから、水電解の水素発生、つまり、水素結合ネットワークでつながった水クラスター内の水1分子からプロトンが還元されて最終的に水素分子となる過程の水素結合ダイナミクスを直接観察できているものと考えられる。これを支持する結果として、水素発生効率の高い白金電極において同様の結果を得ることにも成功した。なお、白金電極ではスペクトルのピーク位置がやや異なる傾向もあり、今後これらの原因を突き止めることで水圏機能としての電極反応活性と界面水のかかわりが明らかになるはずである。 次に、界面水の低エネルギー振動測定自体が初めての試みであることを踏まえて、間違いなく電極面の吸着水を観測していることを実験的に立証するため、真空乾燥した電極をそのまま測定できるように実験系を工夫し、水蒸気導入によるスペクトル変化のその場計測にも成功した。これらの結果から、本研究社が開発した測定法によって初めて得られたスペクトルが、間違いなく界面水の集団運動を反映したものであることが確認できた。 また、領域内共同研究として、水分子の数がよく規定された系での実験を目指して、水分子を内包したフラーレン類の計測も試みた。さらに、本手法を様々な試料に対して適用するため、コアシェル型の金属ナノ粒子の合成も行って、共同研究の準備を進めた。 以上、研究計画に従って順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
水素発生電位における界面水の特異な誘電応答について系統的な情報を得るため、水素発生効率の高い白金電極と水素発生効率がやや劣る金電極に加えて、水素発生効率が低い鉛電極についても同様の測定を行う。3種類の電極での比較から、水素発生反応時に特有の界面水ダイナミクスについて統一的な理解が得られるはずである。なお、実験に用いる鉛電極には、表面増強効果を持つ金電極の表面にアンダーポテンシャル析出を活用して単原子層を構築したものを利用する予定である。また、界面水の低エネルギー領域測定は、本研究以外での測定例がないため、同位体効果によってスペクトルの同定に問題がないかを検証する必要がある。報告のあるバルク水のスペクトルとの比較から、当該のピークはH原子よりもO原子の影響を強く受けることが予想されるため、D2Oに加えてH2O(18)の実験も必要となる。そこで、これまでの検討によって、真空乾燥で表面吸着水を除去した状態のその場測定が可能になったことを生かし、水蒸気導入による表面吸着水のスペクトル計測について、同位体効果の検証を実施する。 また、水分子を内包したフラーレン類を用いた共同研究についても、水分子数の定義された水のダイナミクス計測の観点から引き続き取り組む他、他の共同研究についても積極的に検討する予定である。
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