研究領域 | ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04600
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 青山学院大学 (2023) 東京理科大学 (2022) |
研究代表者 |
鈴木 慎太郎 青山学院大学, 理工学部, 助教 (60837508)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ハイパーマテリアル / 新物質探索 / 超伝導 / 近似結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
2018年に報告された、通常の結晶とは構造が大きく異なる準結晶における超伝導は大きなインパクトを与えたものの、その超伝導転移温度の低さが課題となっている。組成を大きく変化させられるハイパーマテリアルとしてTsai型が挙げられる。Tsai型ハイパーマテリアルでは磁性研究が盛んにおこなわれてきた反面、非磁性系の探索は精力的に行われてこなかった背景があり、これを反映してか、超伝導の報告は近似結晶における2例に留まっている。そこで本研究では非磁性Tsai型ハイパーマテリアルの新物質探索を行う。
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研究実績の概要 |
実空間で周期性を持たないにも関わらず秩序構造を有する準結晶において、既存の結晶における磁性や超伝導といった物性が同様に発現するかが注目されている。これを比較するうえで、準結晶と同じ局所構造を持ちながら周期性を有する近似結晶も同様に研究の対象となっており、これらを総称してハイパーマテリアルと呼ぶ。この中でもTsai型ハイパーマテリアルは希土類元素を含むことができ、構造安定性が高いことから、磁性系の探索は精力的に行われてきたものの、非磁性系の探索例はそれほど多くない状況であった。 本研究では、新規超伝導系の探索を目指し、非磁性Tsai型ハイパーマテリアルの探索を行った。その結果、Tsai型1/1近似結晶のみならずより高次の、すなわち準結晶により近い構造を有するTsai型2/1近似結晶も得られる、Au-Al-La系を新たに発見した。本2/1近似結晶に対し低温での電気抵抗・磁化・比熱測定を行ったところ、0.49 Kにて超伝導転移が見られることが明らかとなった。この発見はTsai型2/1近似結晶における初めての超伝導に相当し、他の正二十面体を骨格構造に持つ2/1近似結晶と比較しても最も高い転移温度を有する。 また、これ以外にも、Au-Sn-La1/1近似結晶を発見した。磁性探索においては、単原子当たりの価電子濃度がその磁性の決定に対し重要な役割を果たしているとみられているが、本近似結晶はこれをチューニング可能な系である。実際に、組成に依存し転移温度が変化する様子が観測されたことから、転移温度向上に向けた大きな手掛かりとなることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度にて新規系となるAu-Al-La 2/1近似結晶を発見し、かつ電気抵抗・磁化・比熱測定により、本近似結晶が超伝導転移を0.49 Kにて示すことが確かめられた。これは、Tsai型2/1近似結晶における初の超伝導発現であり、高次近似結晶で超伝導が見られたことから、Tsai型準結晶が本系にて発見されれば超伝導を発現することが期待される。なお、高次近似結晶における超伝導の報告があるのは準結晶の発見されたAl-Mg-Zn系のみであり、その転移温度は準結晶とおおよそ同じ50 mK程度である。そのため、本発見は、2/1近似結晶の転移温度を10倍程度向上させたこととなる。 また、1/1近似結晶においては、新たにAu-Sn-La系を発見した。この系はAu/Sn比をチューニングできることから、磁性で磁気基底状態を決定する重要なパラメータとみられている単原子当たりの価電子濃度(e/a)を変化させうる系である。これに対し低温での電気抵抗測定を行ったところ、組成に依存し転移温度が変化する様子が見られた。e/a = 2.0より離れるに従い転移温度が向上する傾向があることから、本系がこれまで議論されてきた通り、Hume-Rothery則に従い擬ギャップを持っており、そこから離れるに従い状態密度が上昇し、転移温度が向上しているものとみられる。 これ以外には0.4 Kまでの測定で超伝導を発現しなかったものの、Au-In-Y 1/1近似結晶の合成に成功している。当初計画では、Au基Tsai型ハイパーマテリアルにおける新物質合成を行い、1/1近似結晶からスタートし、得られた系を適宜評価していく方針であったが、すでに超伝導を示す高次近似結晶が得られていること、組成依存性を評価できていることから、当初計画以上の進展があったとしたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は非磁性のTsai型準結晶探索のため、液体急冷などの手法も積極的に取り入れ、まずはその発見を目指す。液体急冷装置は申請者が所属していた東京理科大学田村研究室が所有しているものの、申請者は東京理科大学から青山学院大学に異動したため、必要に応じ適宜田村研究室まで出張・訪問し、物質探索を進めていく。もしこれが発見され、かつ研究期間中に可能であれば、この安定化を目指した多元化なども行っていく。先行研究より、Au-Al-Gd Tsai型1/1近似結晶に対し、その非磁性元素部であるCuおよびInを置換することにより、2/1近似結晶の構造が安定化することが知られている。この結果により多元化が高次の構造を安定化させることが示唆される。 またこれ以外にも、転移温度向上に向けた条件探索のため、引き続きその他系にて組成を大きく振れる系の探索を行っていく。磁性にて精力的に研究されてきた近似結晶における磁気基底状態の単原子当たりの価電子濃度依存性は、Fermi面のチューニングに相当するものとみられるため、Au-Sn-La系でみられる性質が合金系・近似度(近似結晶から準結晶への移り変わりを含む)に対し、どこまでユニバーサルに通用するか、という点は超伝導状態の探索のみならず、準周期系におけるFermi面の実在を問う課題でもあるため、非常に重要となる。
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