研究領域 | 蓄電固体デバイスの創成に向けた界面イオンダイナミクスの科学 |
研究課題/領域番号 |
22H04623
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京工業大学 (2023) 早稲田大学 (2022) |
研究代表者 |
畠山 歓 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (90822461)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 高分子電解質 / 全固体電池 / マテリアルズ・インフォマティクス / 高分子固体電解質 / 全固体二次電池 / リチウムイオン電池 |
研究開始時の研究の概要 |
全固体リチウム二次電池の重要部材として注目されている固体電解質(リチウムイオンを流す材料)を新たな分子設計で創出し、そのメカニズムを究明する。電荷移動錯体という、半導体への応用などで注目されてきた分子構造をイオンの輸送に活用するアプローチで新規高分子群を合成する点に特色があり、社会実装に欠かせない、長寿命で高性能な電解質フィルムを得られる見込みがある。詳しい動作メカニズムは不明なため、先端の計測手法やデータ科学の手法も導入しながら分子構造の解析を進め、高速でイオンが輸送される理論の提示を目指す。
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研究実績の概要 |
分極性の高分子とリチウム塩の界面相互作用を鍵とする固体電解質の創製と学理解明が本研究の目的である。これまでに、ガラス状のポリマーを媒体にリチウム塩を添加した有機イオン伝導体を合成し、その分子構造とダイナミクス解明に取り組んだ。例えば電荷移動錯体型のポリマーと対称性を落としたスルホニルイミド系のリチウム塩が相互作用することで、塩がアモルファス相へと変位し、高いイオン伝導度とリチウム輸率を実現できることが分かった。高い安全性と高いエネルギー密度を実現する固体電解質を開発するために必要な、新たな分子設計の指針が明らかになりつつある。 本研究の主な目的の1つは、当該電解質の構造とイオン伝導性の関係を明らかにすることである。高伝導の鍵となる因子は塩のアモルファス化であり、電荷移動複合体との相互作用によってそれが誘起されることが示された。 合成した固体電解質を用いたリチウムイオン電池の動作検証にも予備的に取り組んだ。最適な電解質・デバイス条件を検討した上で、プロトタイプ電池を試作した。例えばリチウム鉄リン酸塩カソードとリチウムチタン酸アノードを用いた全固体リチウムイオン電池を試作した。本電池は1.9Vの標準電圧で可逆的に動作した。さらに、電解質のリチウム輸送能が高かったことから、1 mA/平方センチを超える高い電流密度においても充放電反応が進行することが明らかになった。 一連の成果は学会発表や査読付き学術論文誌で報告した。さらなるイオン伝導性の向上や安定性の確保などの問題点が残されていることから、23年度はその課題解決のための基礎学理の究明に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初の研究計画に従って、おおむね順調に進展していると言える。その理由は以下の通りである。 a)ガラス状有機イオン導体の動作実証: ポリマー型の電荷移動複合体と相互作用したアモルファス塩相により、高いイオン伝導と高いリチウムイオン輸率を両立した電解質を実験実証できた。 b)固体電解質の構造とイオン伝導性の関係の解明: アモルファス塩相が高いイオン伝導を誘起するメカニズムを部分的に解明した。これにより、有機材料によって固体電解質の伝導度を向上させるのための新たな分子設計の指針が明瞭になりつつある。 c)全固体リチウムイオン電池の試作:試作した電池は正負極の電位差に対応する標準電圧で可逆的に動作し、高い電流密度においても充放電反応が進行することを示せた。 これらの理由から、本研究はおおむね順調に進展していると結論付けられる。引き続き、高い伝導度を示す機構の詳細を明らかにする研究を推進することで、新たな成果集積を見込める。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、以下の課題に取り組む予定である。 a)分子設計の多様化: 22年度の研究を通し、ポリマーの分極性が高伝導化の鍵であることが明らかになった。従って、電荷移動錯体以外の高分子設計への展開可能性を検討することが新規課題として抽出された。例えば、何らかの極性基を持つ非芳香族ポリマーを合成することで、芳香族系と同等のイオン伝導度を発現できる可能性がある。 b)種々の構造解析手法の導入: 固体電解質の高い伝導度に寄与する本質的な因子を明らかにするため、領域内連携を通じて固体条件での核磁気共鳴(NMR)や電顕観察などの種々の構造解析手法を追加導入する。これにより、固体電解質の構造とイオン伝導性の詳細な関係を解明し、最適な分子設計指針に繋げることが可能となる。 c)界面制御手法の探求: 固体電解質と電極材料の界面制御は、デバイス特性を規定する重要因子である。特に有機材料はリチウム負極との安定性が必ずしも高くないことから、緩衝層の導入といったアプローチが有効な可能性がある。今後の研究課題の1つとして注力しながら推進する。
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