研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
22H04630
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
矢野 環 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50396446)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | p62構造体 / 腸管上皮 / バリア破綻 |
研究開始時の研究の概要 |
加齢依存的に生じる腸管バリア破綻は、全身性の炎症疾患の病態を悪化させる。我々はこれまでにショウジョウバエ腸管をモデル系として用い、腸管上皮細胞損傷は隣接した細胞で形成されるp62構造体によって応答反応を生じさせ、腸内常在菌に対して起きる過剰な損傷応答の継続が、加齢依存的な腸管バリア機能破綻を起こすことを示してきた。そこで本研究では、隣接細胞の損傷感知依存的なp62構造体の「場」の形成機構、その加齢による変化の分子機構、老齢期に選択的オートファジー機能が低下する分子機構を明らかにすることで、選択的オートファジーによる組織恒常性維持機構が生涯にわたって保持される事の生理的意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、細胞内シグナルのプラットフォームとして機能し、選択的オートファジーによってその量的制御が成されているp62構造体が、隣接細胞の損傷を感知することで形成される機構と、その形成の「場」が加齢によって変化して組織の恒常性を失わせる分子機構を明らかにし、選択的オートファジー低下のもたらす組織老化の分子機構解明から、加齢依存的な炎症性疾患の原因理解を目的としている。加齢依存的に生じる腸管バリア破綻は全身性の炎症疾患の病態を悪化させるため、その分子機構の解明が重要である。我々はショウジョウバエをモデルとして腸管上皮組織におけるオートファジー機能を研究する過程で、腸管上皮細胞が腸内細菌に対して産生する活性酸素種が宿主の上皮細胞を損傷し、それによりp62構造体をシグナルプラットフォームとするHippo経路不活化によりサイトカイン分泌亢進が生じ、損傷応答が惹起されることを明らかにしてきた。さらに若年期では、p62構造体は3細胞接着因子依存的に局所に形成されるが、加齢に従い頂端面全面に存在すること、このp62構造体が老年期における腸管バリア破綻の原因である事を明らかにした。本研究ではこれらの独自の知見に基づき、1. 損傷細胞の感知が隣接細胞にp62構造体を形成させる機構、2. 加齢腸管においてオートファジー低下をもたらすRubicon発現上昇の分子機構、3. 加齢腸管においてp62構造体が上皮細胞の管腔側全体に局在を変える分子機構、の3項目を実施する。これらの解明により、組織という3Dの極性を有する場所での細胞内シグナルを制御する選択的オートファジーの場が、損傷という外界の要因に対しいかに形成されるのかという、選択的オートファジーの生理機能としての新たな一面を示すのみならず、その破綻による組織機能老化の機構を示すことで、オートファジーが関与する加齢関連疾患の本質に迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、損傷細胞の感知が隣接細胞にp62構造体を形成させる機構の解明に大きな進展を得た。腸管上皮特異的オートファジー不全個体の示す活性酸素種感受性を利用したゲノム網羅的スクリーニングを実施した結果より同定された膜貫通型ロイシンリッチリピート因子Capriciousが、細胞損傷に応じて発現上昇し、同じスクリーニングにより同定された膜貫通型因子Turtleと共に機能して隣接する細胞に情報を伝達することによって、隣接細胞内の3細胞背着部位付近にp62構造体を形成させることを明らかにした。さらに、このp62構造体形成には上皮細胞頂端面に局在するアクトミオシンの活性化が必須であることを示した。これらの機構は、p62構造体形成のみならず、それが担う応答である活性酸素種による腸管上皮細胞損傷の修復に必須であった。このような、損傷細胞とその隣接細胞の連携した損傷応答機構は新規の知見であり、過不足無く損傷を修復し上皮組織のインテグリティーを維持するために重要な機構であると考えられた。本研究のもう一つの柱である加齢腸管におけるp62構造体形成の場の変容については、老化の過程として、宿主に恒常性破綻が生じ始める老化初期、腸内細菌叢の変化と宿主の機能低下が増悪ループを形成して恒常性破綻が進行する老化中期、腸管バリア破綻が顕著となる老化後期に区分し、今年度は老化初期に宿主で生じる変化をRNAseqにより解析した。その結果、若齢時に生存に必須な機構である損傷応答に機能するアクトミオシンの制御が老化初期に変化し、これが老化中期におけるバリア破綻の増悪と寿命の短縮をもたらすことを明らかにした。p62構造体形成には上皮細胞頂端面のアクトミオシンが制御する細胞間接着部位が重要であり、老化初期におけるアクトミオシン制御異常がp62構造体の局在を変化させ、これが老齢期のバリア破綻の発端となる可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題は計画通り進展しており、2022年度の成果に基づいた発展研究を行う。項目1の損傷細胞の感知が隣接細胞にp62構造体を形成させる機構については、隣接細胞において損傷応答に必須の因子Capriciousから情報を受容する因子の同定を行う。我々はすでにその候補となる、損傷に応じたp62構造体形成に必須の膜貫通型因子を同定しており、この因子を介してアクトミオシン活性化、p62構造体形成が成されるかを検討する。これらの成果をまとめ、腸管上皮損傷応答におけるp62構造体形成機構と腸管上皮損傷機構の全容について、投稿論文とする。項目2の加齢腸管において選択的オートファジー機能が低下する分子機構については、我々がこれまで示してきた上皮損傷応答における転写ポージング機構の、加齢に応じた制御破綻を詳細に検討する。すでにそのターゲットとなる遺伝子発現を網羅的に解析するための受託を開始しており、結果の解析とそれに基づく組織学的な検討を行う。また、Rubiconなど加齢に応じて選択的オートファジー活性の制御異常に影響しうる個別の因子についても、転写ポージングの影響を検討する。項目3の加齢腸管においてp62構造体が上皮細胞の管腔側全体に局在を変える分子機構については、老化初期に変化する上皮細胞頂端側のアクチンとミオシンによる張力を遺伝学的手法によって人為的に変化させることにより、p62構造体形成の場の分子機構を明らかにする。さらに、これまでに明らかにした加齢に応じたアクトミオシン局在変化を生じさせる原因をJNK経路に着目して解析する。これらの成果は、加齢によるp62構造体と選択的オートファジーの場の変容機構を中心テーマとした学会発表、投稿論文として発表する。
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