研究領域 | マルチモードオートファジー:多彩な経路と選択性が織り成す自己分解系の理解 |
研究課題/領域番号 |
22H04650
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
関藤 孝之 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (20419857)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
|
キーワード | 液胞 / トランスポーター / オートファジー / TORC1 / Saccharomyces cerevisiae / アミノ酸リサイクル |
研究開始時の研究の概要 |
オートファジーはタンパク質を液胞内で分解し生じたアミノ酸をリサイクルすることで飢餓条件での細胞の生存に寄与するといわれている。近年、オートファジーがタンパク質以外の高分子も分解し多様な分解産物をリサイクルすることが示されている。本研究では酵母の液胞からアミノ酸を排出するトランスポーターを欠損させ、生育等表現型や遺伝子発現の変化を検討することにより、アミノ酸リサイクルの生理的な役割について直接的なアプローチを行う。さらにオートファジーを負に制御するTORC1活性へのアミノ酸リサイクルの作用を網羅的に解析することによりオートファジーの持続・終結の仕組みを理解するための知見を獲得する。
|
研究実績の概要 |
液胞からの中性アミノ酸リサイクルが低下した株では中性アミノ酸合成遺伝子を破壊しても生存率低下がみられなかった。そのため未知の液胞中性アミノ酸トランスポーターの存在が示唆された。さらに液胞アミノ酸トランスポーター多重欠損株におけるタンパク質合成の低下および、胞子形成不全等の解析結果をまとめ、国際学会にて発表した。 また、中性アミノ酸リサイクル欠損株において、オートファジー欠損株とほぼ同程度に細胞内レベルが低下するタンパク質と、ごく部分的しか低下しないタンパク質があることが新たに分かった。このことはアミノ酸リサイクル欠損によるタンパク質合成能低下がタンパク質によって及ぼす影響が異なることを示唆する。この相違を生じる機構は不明だが、窒素飢餓条件で顕著な生存率低下を示す塩基性アミノ酸リサイクル欠損株においては、部分的な生存率低下しか示さない中性アミノ酸リサイクル欠損株より顕著なタンパク質レベルの低下を示したことから、タンパク質合成活性の低下が生存率低下と密接にリンクした重要な指標となることが示唆された。またオートファジーによって生じたセリンは培地中グルコース枯渇後の呼吸生育への速やかな移行に利用されるが、中性アミノ酸リサイクル欠損株は呼吸生育の遅延を示さなかった。したがって前述の生存率測定結果と一致して、未同定の中性アミノ酸(セリン)の液胞からの排出系の存在が示唆された。これらをまとめ、学会にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性アミノ酸リサイクルに関与するトランスポーターの多重破壊株においてアミノ酸合成遺伝子を破壊すると窒素飢餓条件で1週間程度では野生株とほぼ同程度の生存率であったが、さらに長時間培養すると有意に生存率が低下した。オートファジー欠損株に比べると部分的ではあるが、この表現型は今後進める新規中性アミノ酸トランスポーター同定の指標となる。新規トランスポーター同定に向け、別の中性アミノ酸合成酵素との多重欠損株を作成し、より明瞭な生存率低下を示すものを探索する。また、機能未知のAVTファミリートランスポーター(Avt2とAvt5)の遺伝子をアミノ酸リサイクル欠損株でさらに破壊している。各々の過剰発現では液胞内アミノ酸量はほとんど変化しなかったが、他のトランスポーターとの多重破壊によって窒素飢餓条件での生存率等に影響が見られる可能性がある。 ビオチン化タグの使用によって同定された候補因子とAvt4の相互作用を共免疫沈降によって検出を試みたが結果が安定しない。相互作用が一過的もしくは非常に弱いことを想定し、架橋剤の使用とBiFCによる検出を試みている。特にBiFCではVenus蛍光タンパク質のN末端断片とC末端断片をそれぞれTORC1関連因子とAvt4に付加した融合タンパク質を共発現することにより液胞膜に強い蛍光を検出しており、相互作用検出のツールとして有効な可能性がある。 アミノ酸リサイクル欠損株においてサイトゾルタンパク質の液胞内での分解が早期に減衰することを見出している。アミノ酸リサイクルのオートファジー持続への関与について調べるため、TORC1標的タンパク質のリン酸化検出のためのタグ付加を進めている。またオートファジー抑制の指標となるAtg13のリン酸化についてもリサイクル欠損株でタグを付加し検出系を構築した。同時にリン酸化状態の変化を感度良く検出するための条件設定を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
1. アミノ酸リサイクル欠損株においてオートファジー必須因子の細胞内レベル低下を検出しており、このことがオートファジー早期減衰の原因と考えている。そこでオートファジー必須因子の過剰発現もしくは、栄養豊富条件でのラパマイシン添加によるオートファジー活性への影響評価等により液胞アミノ酸リサイクルのオートファジー持続への関与のさらなる検討を進める。
2. 液胞からの塩基性アミノ酸リサイクルが低下した株は塩基性アミノ酸合成遺伝子の破壊によって窒素飢餓条件での顕著な生存率低下を示した。その一方で、中性アミノ酸リサイクルが低下した株では中性アミノ酸合成遺伝子を破壊しても生存率の低下は限定的であったことから、未知の中性アミノ酸トランスポーターの存在が示唆されている。そこで、野生株とリサイクル欠損株の遺伝子発現をマイクロアレイ解析によって比較し、トランスポーターを含むアミノ酸リサイクル新規関連因子の同定につなげる。
3. 近位依存性ビオチン化によって同定された候補因子とAvt4の共免疫沈降において架橋剤の使用により弱い相互作用の検出を試みる。また、Avt4 のプロテオリポソーム再構成に着手しin vitroでの相互作用検出も試みる。さらに、Avt4 N末端親水性領域の段階的欠損により、TORC1関連因子と相互作用しない変異型Avt4を単離し、相互作用がAvt4のアミノ酸輸送活性とTORC1活性に及ぼす影響について検討を加える。Avt4以外のトランスポーターについても近位依存性ビオチン化による相互作用タンパク質同定を試み、活性調節機構の解明や栄養情報伝達への関与を明らかにする起点とする。さらに、アミノ酸リサイクル欠損株の窒素飢餓条件でのTORC1の再活性化およびAtg13再リン酸化の有無・タイミングの変化を調べることにより、オートファジー活性持続に関わる機構について検討する。
|