研究領域 | 多様かつ堅牢な細胞形質を支える非ゲノム情報複製機構 |
研究課題/領域番号 |
22H04684
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
星居 孝之 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (20464042)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
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キーワード | 白血病 / 酵素活性 / ヒストンメチル化 / 転写 |
研究開始時の研究の概要 |
MLL転座型急性骨髄性白血病の再発に関わる未分化型白血病細胞ではヒストンH3K4トリメチル化の著しい亢進が認められる。一方でその原因となる酵素は同定されていない。また酵素活性非依存的な役割もあり、生体内白血病幹細胞制御における長期的なHMT活性の役割は十分に解析出来ていない。本研究ではin vivo白血病で働くH3K4 HMTの機能的評価と白血病進展の原因となる酵素の同定を目指す。
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研究実績の概要 |
白血病ではH3K4me3の増加が観察されているが、その責任酵素は明らかではない。本研究ではin vivo白血病で働くH3K4メチル化酵素を機能的に評価することを目的とし、新たに樹立した酵素活性ドメイン(SET)特異的欠損誘導マウス系統を用いて解析を実施した。まず成体の正常造血システムにおいてSETドメインを欠損させて機能評価を行った結果から、長期的な幹細胞性の維持に酵素活性が必須であることを明らかにした。一方で白血病モデルでは3週間の欠損条件下では細胞増殖やH3K4メチル化状態において有意な差は観察されず、異なる酵素の修飾活性に依存することが示唆された。次に白血病細胞で機能する酵素の同定を目的とし、全てのH3K4メチル化酵素を対象としたCRISPR tiling screenを実施した。白血病細胞において機能的に重要なH3K4 HMTとして同定した酵素の修飾活性ドメインに変異を導入した細胞を樹立し、H3K4メチル化の変化や遺伝子発現を解析することにより、下流標的の同定を行った。H3K4メチル化はこれまで転写開始点と遺伝子本体で豊富に観察されており、異なる機能を持つことが報告されている。私たちの解析の結果から、今回の研究で同定した酵素は遺伝子本体側のメチル化制御に必須であることを見出した。これまで哺乳類のH3K4 メチル化酵素は複数存在し、どのような機能的独自性と類似性がそれぞれの酵素に備わっているかは十分明らかとなっていなかった。本研究の進展から遺伝子発現の安定性や細胞運命の決定に関わる遺伝子本体のH3K4メチル化を司る酵素が白血病細胞の非ゲノム情報複製に関わることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は変異マウスの骨髄造血幹・前駆細胞にMLL-AF9遺伝子を導入し、in vitroで機能評価を実施し、酵素活性ドメインを欠損する細胞が継続的に増殖可能であることを明らかにした。この細胞を活用し、H3K4me3のChIP-seq解析も実施したが、こちらも大きな変動は認められなかった。同時並行で行なった変異マウスを用いた造血幹細胞の機能解析から、酵素活性ドメインの役割が正常の造血幹・前駆細胞の維持に必須であるとのデータを得ており、白血病細胞では異なる酵素が重複的に機能することが示唆された。そこで当初の計画通りに酵素活性ドメイン欠損細胞とCRISPR技術を用いたスクリーニングを実施し、白血病細胞にて機能的に必須となるH3K4メチル化酵素を同定を試みた。蛋白構造の類似性などから同様の役割を持ちうる酵素について重点的に解析を行い、白血病細胞にてH3K4me3の量的制御に必須となる酵素を同定した。このH3K4メチル化酵素を欠損する細胞を樹立し、RNAの発現を解析を行なった結果から、がんや白血病の発症に必須となるMYCの発現が最も顕著に影響を受けていることが明らかとなった。MYCの遺伝子座では、H3K4me3がプロモーター周囲に限らず、遺伝子本体の領域に至るまで非常に豊富に観察されることが特徴的であるが、変異細胞では遺伝子本体側のH3K4me3が顕著に減少した。このようなH3K4me3の特徴は安定的な遺伝子発現の維持に必須であることから、本研究で同定した酵素はH3K4me3の制御を介して、高いMYCの発現や白血病の増殖に寄与することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
作製した酵素活性ドメイン特異的な変異細胞についてはin vitroで顕著な差を認められなかったことから、現時点ではin vivoでの解析は十分に行なっていない。今後はまず骨髄移植により生体内環境下での機能評価を実施する計画である。また、白血病幹細胞としての機能についても再移植系により、長期的な酵素活性欠損の影響を解析する。生体内から得られる少数サンプルからエピゲノム解析を行うことを目的とし、CUT&Tag法を導入した。これまでの解析手法(ChIP-seq, ATAC-seq)に加え、より重点的に非ゲノム情報について解析を実施する予定である。これまでの研究で新たな機能性H3K4メチル化酵素を同定していることから、H3K4メチル化の意義やMYCが変動する分子機序についてより詳細な解析を実施する。既に酵素活性ドメインが必須であることを見出しているが、CRISPR tiling screenによる新規機能性ドメインの探索などから、新しい創薬標的についても探索する予定である。加えて、こちらの酵素についてもin vivoの白血病モデルを用いた機能評価を実施することを計画している。
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