研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
22H04746
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
島田 敦広 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (80723874)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 電子伝達 / 膜タンパク質 / XFEL / X線発光分光 / 時分割構造解析 / X線自由電子レーザー / ポンププローブ実験 / 金属タンパク質 / プロトンポンプ / 生体エネルギー / 金属膜タンパク質 |
研究開始時の研究の概要 |
酸化的リン酸化の中枢を担うシトクロム酸化酵素(CcO)は、ヘム鉄と銅で構成される酸素還元中心に結合した酸素を還元する反応と共役して、プロトンをポンプする。わずか数ミリ秒で完結する本酵素の反応機構を解明するために、高強度極短パルス幅のX線であるX線自由電子レーザーを利用したポンプ-プローブ実験を実施し、X線回折(XRD)とX線発光分光(XES)の同時測定により、反応過程の中間体の原子座標と金属イオンの電子状態変化を捉える。本研究の目的は、CcOの比較的安定な反応中間体の遷移過程に存在する、酸素還元反応とプロトンポンプ反応を駆動する化学構造変化を分子動画として捉えることである。
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研究実績の概要 |
本研究課題では酸化的リン酸化の中枢を担うシトクロム酸化酵素(CcO)の反応機構を解本研究課題では酸化的リン酸化の中枢を担うシトクロム酸化酵素(CcO)の反応機構を解明することを目的としている。そのために、CcOの反応中間体のX線回折(XRD)とX線発光分光(XES)を同時に測定することで、これら中間体の化学構造(構成原子の空間座標と電子状態)の酵素反応に伴う変化を追跡する必要がある。そこで、高輝度極短パルスという特徴を持つX線自由電子レーザー(XFEL)によるポンププローブ時分割実験を行うという発想に至った。2022年度の研究では、以下の成果が得られた。 1.微結晶を連続でXFEL照射位置へ移送する方法(SFX法)に適したCcO微結晶の調製法を確立した。CcOの大型結晶を潰してシードとして用い、さらに一定時間振動を与えることで目的のサイズの高品質な微結晶が大量に用意可能になった。これによって、これまで3.5 オングスロトーム程度だった分解能が2.5 オングスロトームまで改善された。 2.CcOに含まれるFeおよびCuのXESの測定に成功した。特に、タンパク質中でのCuのXESについてはこれまで報告がなく、酸化還元によるCuのXES変化をはっきりと観測することに成功した。 3.CcOの金属中心の価数変化と構造変化の関係を解明した。阻害剤(シアン化物)が結合したさまざまな酸化状態のCcO結晶を用いて、SPring-8 BL41XUにて回折像を撮影し構造を決定した。これまでに決定したCcOの中間体構造などの構造および金属中心の価数と比較することで、CcO中に含まれる4つの金属中心のうちどの金属中心がプロトン駆動に関わる構造変化を誘起するのかあきらにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究によって、SFX法による高分解能XRDデータとXES(FeもしくはCu)の同時測定方法を確立した。本来はFeとCuのXESも同時に測定する予定であったが、FeとCuのXESの同時測定は各々の金属のXFELのエネルギーへの依存性の違いから困難であった。しかし、同一ロットのCcOサンプルからFeとCuのXESを別々に測定することで、同一条件でのCcO中のFeとCuの電子状態を評価することに成功した。一方で、2022年度中に行う予定であった、一酸化炭素(CO)結合還元型CcOからポンプ光によってCOを光解離させて酸素と置換することで、CcOの反応中間体を捉えるポンププローブ実験については実施できなかった。これはXFEL照射施設であるSACLAのビームタイムが年に2回のみのため、XFELを用いたXRDとXESの同時測定条件の決定が思うように進まなかったためである。しかし、CO結合還元型CcO微結晶の調製に必要な設備については準備が整っており、すでにCO結合還元型CcO微結晶の調製の条件検討も行なっている。そのため、2023年度前期のビームタイムではポンププローブ実験を行える予定である。
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今後の研究の推進方策 |
CO結合還元型CcO微結晶を用いたポンププローブ実験を行い、CcOによる酸素還元反応過程の中間体の化学構造を捉える。当初は、CO結合還元型微結晶を懸濁した溶液と、酸素飽和溶液を迅速に混合したのちにポンプ光とXFELを照射する2液混合型のSFXポンププローブ実験を計画していた。しかし、サンプルの消費量が膨大になりCcOについては実験の遂行が難しいため計画を変更することとした。CO結合還元型微結晶を高粘度媒体と混ぜて送液する従来のSFX実験では、XESおよびXRDの感度を上げるためにXFELの照射位置はヘリウムガスを充填していた。そこで、このヘリウムガスを空気にすることで、ポンプ光照射によって解離したCOを迅速に酸素へと置換することを計画している。CcOの酸素に対する親和性は非常に高く、CO光解離後数マイクロ秒以内に酸素と置換されることが予想されるので、ポンプ光照射後数マイクロ秒から数百マイクロ秒の間で、XFEL照射間隔をナノ秒からピコ秒間隔で設定することで、CcOの反応中間体構造を捉える。特に、金属中心の電子状態をXESによって追跡し、各金属中心の価数が異なる場合のCcOのアミノ酸部分の構造変化を決定する。
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