研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
22H04756
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
光武 亜代理 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (00338253)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 生物物理学 / 分子シミュレーション / 膜タンパク質 / GPCR / ダイナミクス / 解析手法 / 計算化学 / 膜蛋白質 |
研究開始時の研究の概要 |
分子シミュレーション手法を駆使して、クラスAのGタンパク質共役受容体であるオレキシン受容体の機能メカニズムについての知見を得る。オレキシン受容体は睡眠、覚醒リズムの制御に重要な役割を担っており、リガンドによる活性化メカニズムや、リガンドの選択性メカニズムの解明に期待が高まっている。リガンドとオレキシン2受容体の複合体構造の分子シミュレーションを行い、独自で開発してきた分子シミュレーションの解析手法を駆使して、リガンド結合による活性化メカニズムの解明に努める。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、分子シミュレーション手法を駆使して、クラス A のGタンパク質共役受容体(GPCRs)であるオレキシン受容体の機能メカニズムの解明を目的としている。特にオレキシン2受容体のリガンド結合メカニズムについての知見を得る。 昨年度までに、膜タンパク質の分子シミュレーションシステムを構築し、不活性構造をもとにオレキシン2受容体と、そのアミノ酸置換体の初期構造をモデリングして、大規模な分子シミュレーションを実施した。独自で開発してきた緩和モード解析を用いて解析することにより、不活性状態と活性状態を特徴付ける原子間距離を提案して、2つの状態の構造変化である6番目の膜貫通ヘリックス(TM6)とTM7の構造間シフトの関するアミノ酸レベルでの知見を得た。また、TM6とTM7の構造変化によって、Gタンパク質が結合できるスペースができることを明確にして、いくつかの原子接触について提案した。今年度は、アンタゴニスト(不活性構造を安定化するリガンド)とアゴニスト(活性構造を安定化するリガンド)が結合したオレキシン2受容体とそのアミノ酸置換体の大規模な分子シミュレーションを実行して、得られたトラジェクトリーの解析を行った。緩和モード解析を適用することにより、特に不活性構造と活性構造に関して、TM3上にある特徴的な3つのアミノ酸残基の状態が違うことが分かった。それぞれのアミノ酸の状態について詳細に解析を行った。現在論文を作成中である。 また、領域内の実験の研究者と共同研究も開始して、いくつかの他のGPCRの分子シミュレーションを実行している。計算化学的手法を用いたアミノ酸置換による膜タンパク質の安定性の評価システムの構築を目指していて、方法論の開発も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の計画は、アンタゴニストまたはアゴニストが結合したオレキシン2受容体の系のモデリングを行い、分子シミュレーションを実行し、解析する計画であった。具体的には、オレキシン2受容体に関して、アンタゴニストと結合している不活性構造のX線結晶構造が得られているが、これらの構造は、結晶化するためにタンパク質のアミノ酸配列の途中のターン部分などに抗体が挿入されている。よって、これらの構造をもとに追加された抗体を除いたり、ターン部分などの欠損部分をモデリングして初期構造を作成し、アンタゴニスト-オレキシン2受容体のシミュレーションを実行する予定であった。また、アゴニストに関しても近年構造が解かれており、これをもとに同様にモデリングを行いシミュレーションを実行する予定であった。この際、リガンドの力場は一般的な力場パラメータにはないため、GAFFなどのソフトを用いて力場の作成を行う必要があった。 1年目は、上記のモデリングを行い、アゴニストとアンタゴニスとが結合したオレキシン2受容体とそのアミノ酸置換体の大規模な分子シミュレーションを実行した。そして、解析に関しては、特にオレキシン2受容体の構造変化に注目して解析し、この解析から不活性構造と活性構造の違いとして、3番目の膜貫通ヘリックス上にある3つのアミノ酸を特定した。また、7本の膜貫通ヘリックス間の構造ゆらぎの特徴に関する情報も得ることができた。 領域内の研究会などに参加してGPCRに関する研究の情報を得ることができた。特に、オレキシン2受容体の実験研究を行っている研究者とも議論する機会を得て、研究を進めることができた。新しいGPCRの系の共同研究に関しても取り組み始めた。
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今後の研究の推進方策 |
アンタゴニストとアゴニストが結合したオレキシン2受容体の複合体の分子シミュレーションを実施して、不活性構造と活性構造で状態が違うアミノ酸を特定できたので、得られた結果に関して成果として論文化する。またこの解析の際、不活性構造と活性構造のオレキシン2受容体の構造の違いに着目して解析を行ったが、リガンド結合部位のアミノ酸にも着目して解析を進める。 Gタンパク質が結合した状態に関しても、分子シミュレーションを実行する。そして、Gタンパク質との結合に重要なアミノ酸について特定を行う。オレキシンAとオレキシンBが結合したオレキシン2受容体の複合体の計算についてもシステムのセットアップを行う。オレキシンA,Bのペプチドは低分子リガンドに比べて大きいため、初期構造を作るにはサンプリング手法を工夫する必要があるかもしれないが、適宜対応して、分子シミュレーションを実行して、得られた結果を解析する。一連の研究を通して、リガンドについての知見を得る。 領域研究が始まって、別のGPCRに関する研究も開始している。特に、アミノ酸置換によるタンパク質の安定性評価システムの構築を行っている。実験を行う際に、タンパク質をアミノ酸置換してより安定にすることが必要な場合がある。計算化学の手法を用いてシステム構築を行っていく。溶媒効果も取り入れられる液体論に基づくRISM理論を用いて、溶媒効果も取り入れたアミノ酸置換による安定性の評価システムを構築していく。そのための例としてたくさんのアミノ酸置換がされて安定性の評価が実験ですでに行われているGPCRの系で、テストしていく。他にも、領域研究を通して、GPCRの系の分子シミュレーションを実施して、実験にフィードバックしていける体制を整えたいと考えている。
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