研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
22H04758
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
下村 拓史 生理学研究所, 分子細胞生理研究領域, 助教 (50635464)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 非天然アミノ酸 / 構造生物学 / ケミカルバイオロジー / イオンチャネル / 電気生理学 / 高速分子動画 / 時分割構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、非天然アミノ酸(UAA)を多様な標的タンパク質に導入することで、“狙って”“簡単に”光反応性を付与できるかどうかを検証する。また、得られた光反応性タンパク質を、刺激となる光とX線自由電子レーザーの照射とを精密に組み合わせた結晶構造解析法に適用する。これにより、本来光反応性を有しないタンパク質においても光をトリガーとする高速分子動画撮像が可能になり、その機能を実現するタンパク質の構造変化が原子レベルで解明できると期待される。
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研究実績の概要 |
本研究では、非天然アミノ酸(UAA)を多様な標的タンパク質に導入することで、“狙って”“簡単に”光反応性を付与できるかどうかを検証する。また特にこれらのうち、光異性化非天然アミノ酸(PSAA)を導入することにより、光によりその活性を制御できるイオンチャネルを創出し、得られた光反応性タンパク質を刺激となる光とX線自由電子レーザーの照射とを精密に組み合わせた結晶構造解析法に適用する。これにより、本来光反応性を有しないタンパク質においても、光をトリガーとする高速分子動画撮像が可能になる。標的タンパク質の機能を実現する構造変化を、高空間・時間分解能で捉えることができると期待される。 これまでの研究により、光反応性UAA利用の一例として、ツメガエル卵母細胞系において光ケージドアミノ酸(PCAA)を導入する系を確立できた。この系を利用して、ある種の酵素の活性部位近傍にPCAAを導入することで、その酵素活性を光制御できることを確認できた。また、高速分子動画法への適用を目的とするPSAA導入イオンチャネルについては、卵母細胞発現系を用いた機能解析により、光により効果的に活性を制御できるPSAA導入部位を同定したうえ、その変異体PSAA導入タンパク質の大量発現・精製を行い、結晶化に供与できるレベルの品質であることを確認した。現在は、精製後もPSAA導入イオンチャネルが活性を保持し、かつ光による活性制御が可能であることを確認するため、FRET法を利用した解析系の確立を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 対象とするイオンチャネルは細胞内pHによって活性化する。PSAA導入体における光活性制御とpH依存的活性化の連関を調べるため、inside-out法により細胞内側を露出させてpHを変化させることを試みた。しかしながら、標的イオンチャネルはinside-outの状態にするとチャネル活性がRun-downすることがわかった。細胞内側の溶液組成の変更、活性に必要な脂質の脱離の可能性の検討、哺乳類培養細胞系での測定などを検討したが、現状Run-downを防ぐ有効な方法を見つけることはできていない。また、野生型の標的イオンチャネルの発現・精製の報告をもとに、大腸菌発現系においてPSAA導入イオンチャネルを大量発現し、精製を行った。得られた精製タンパク質をゲルろ過クロマトグラフィーにより分析したところ、単分散性のピークを示したことから、結晶化に供することが可能な品質であると判断される。 (2) (1) の検討に時間を要し、Gタンパク質共役型受容体へのUAA導入の検討はやや遅れている。 (3) ケージドアミノ酸の一種であるcaged serineを導入することを検討し、ツメガエル卵母細胞系においてcaged serine結合性アミノアシルtRNA合成酵素/サプレッサーtRNAを発現させた。この方法により、PI(3,4)P2の脱リン酸化酵素であるINPP4Bの活性部位近傍にPCAAを導入し、two-pore channel 3(TPC3)と共発現させた。TPC3はPI(3,4)P2により活性が亢進するため、TPC3の電流を介してINPP4Bの活性を確認できる。この条件において電流測定を行ったところ、光照射に依存してTPC3電流の減少が観察された。この結果により、UAAにより比較的容易な戦略で酵素やイオンチャネルを光制御できることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 標的イオンチャネルの機能解析については培養細胞を用いた系では困難であることが想定されるので、精製タンパク質を人工脂質膜に再構成して電流測定を行うことを目指す。いくつかの野生型標的チャネルについての報告があるため、これをもとに電流測定を行う系をたちあげる予定である。また、結晶中では精製タンパク質は界面活性剤により可溶化した状態であるため、この状態での活性を確認することが必要となる。現状予備的な結果ではあるが、精製した野生型タンパク質がpH依存的に構造変化することをFRET法により確認できている。今後は、精製PSAA導入タンパク質に光照射を行い、pH依存的なものと同様のFRET効率の変化が生じることを確認することで、光依存的にチャネルの活性化を誘起できることの確認とする。精製タンパク質は結晶化に供することができる品質だと思われるので、これらと並行して結晶化条件の探索も行う。 (2) GPCRへの導入については、既存の機能解析結果と立体構造情報をもとに、標的GPCRのアロステリック調節領域およびリガンド結合にPSAAを網羅的に導入し、光依存的に活性を変化させられる位置を探索する。 (3) 予定された計画は達成されたものと考えている。
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