公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
地球上の窒素循環において、窒素固定により切断されたN-N結合の再生を触媒し、窒素化合物のバランス維持において重要な膜結合型一酸化窒素還元酵素(NOR)を対象とする。NORはヘム鉄と非ヘム鉄からなる活性中心において、電子伝達およびプロトン化を巧妙に行うことで、化学結合の形成(N-N結合)と開裂(N-O結合)を円滑に行うことができる。そのため、多くの研究者がその反応機構の解明を目指してきたが、未だ反応中間体の構造は解明されておらず、詳細な反応機構の理解に至っていない。そこで、この現状を打破するために、SACLAを利用した時間分解構造解析により、NORの反応中間体の構造を決定することに挑戦する。
膜結合型一酸化窒素還元酵素(NOR)は、ヘム鉄および非ヘム鉄からなる複核活性中心において、細胞毒である一酸化窒素(NO)の還元反応を触媒する。NORによるNO還元の化学についての理解を深めるために、本課題では、X線自由電子レーザー(XFEL)を利用した時間分解X線結晶構造解析によりNORの反応中間体の構造を明らかにすることを目的としている。これまでの溶液試料を用いた実験から、紫外光照射によりNOを発生するケージドNOを反応開始のトリガーとした時間分解計測が可能であることを示してきており、本課題では、これを結晶試料に適用する。NORによるNO還元反応は、還元型NORとNOが反応することで開始されるので、還元型NORの酸素分子による自動酸化を防ぐ必要がある。つまり、NORの反応を時間分解構造解析により追跡するためには、嫌気条件下での時間分解X線構造解析を行う必要がある。そのために、酸素分子を透過させない酸素バリア性フィルムを用いてNORの結晶試料を包み込んでX線回折実験を行うことを提案し、本測定に適した酸素バリア性フィルムを入手し、酸素バリア性フィルムを結晶化プレートとして、NORの結晶を得る方法を確立してきた。本年度は、上述の酸素バリア性フィルムを用いて得られた結晶のX線回折実験をXFEL施設SACLAにて実施した。測定では、結晶を含んだフィルム状プレートを適当な大きさに切り取り、海外研究協力者であるDiamond Light Sourceのグループが開発した固定ターゲット測定用のホルダに固定した。そして、ラスタ―スキャンを行うことで、回折像を取得した。得られた回折像について指数付けを行ったところ、NORの結晶の空間群・格子定数を示しており、回折像が取得できていることが確認できた。しかし、この実験では、得られた回折像が少なすぎたため、構造解析には至らなかった。
2: おおむね順調に進展している
2020-2021年度の研究を通じて確立した酸素バリア性フィルムをフィルム状結晶化プレートとして利用した方法で得られたNORの結晶について、SACLAでの測定が可能か検討した。結晶が得られたフィルムプレートを適当な大きさに切り取り、海外研究協力者が開発した固定多ゲット型測定用のホルダに固定した。これをラスタースキャンによりXFEL光の照射位置を変えながらX線回折実験を行ったところ、フィルムによる高いバックグラウンドの中、回折斑点を観測することができた。得られた回折像について、指数付けを行ったところ、SPring-8で得られている空間群・格子定数と同様の結果を得ることができ、SACLAでもデータ収集が可能であることが示唆された。しかし、今回の実験では、得られた回折像が少なく、構造決定には至らなかった。時間分解計測では、還元型NORの調製が必要となるので、還元型の結晶の調製を試みた。これまで還元型の試料を調製し、結晶化に取り組んできたが、良質な結晶を得ることができなかったので、酸化型の結晶を還元剤で還元することとした。酸化型の結晶をメッシュループで掬い取り、ジチオナイトを含んだ結晶化母液に浸した後、結晶を凍結し、SPring-8のマイクロフォーカスビームラインにて、結晶の質を検討した。X線回折実験の結果、ジチオナイト溶液に浸漬した結晶においても、分解能2.5 A程度の回折データを得ることができた。この結果は、還元作業を行っても結晶が大きな損傷を受けないことを示している。以上のように、NORの高速分子動画撮影に向けた準備が進められている。
グローブボックス内で酸化型のNOR結晶をジチオナイトで還元し、還元剤を含まない結晶化母液で洗浄した後にケージドNOを浸潤させる。これを酸素バリア性フィルムで包み込み、グローブボックスから取り出す。フィルムを適当なサイズに切断し、SACLAでの固定ターゲット型測定用ホルダに固定し、ラスタースキャンによる測定を行う。この際には、光励起によるケージドNOの光解離を利用した時間分解X線結晶構造解析を行い、NORによるNO還元反応についての高速分子動画撮影を行う。室温での高速分子動画撮影と並行して、反応中間体を凍結捕捉し、無損傷構造解析による構造決定にも取り組む。溶液を用いた実験では、還元型NORとケージドNOを混合した試料を凍結し、液体窒素温度での紫外光照射を行った後に、温度を170 Kまで昇温すると、非ヘム鉄にNOが結合した化学種が得られることをつきとめている。この手法は、結晶試料にも適用可能なので、還元型NORの結晶をケージドNOを含んだ結晶化母液に浸漬したものを凍結する。その後、紫外光照射を行い、温度を170 Kに昇温することで、反応中間体を結晶中で捕捉できるものと期待できる。溶液での実験では、更なる昇温で、別の化学種が形成している可能性を示すデータが得られており、昇温温度を変えていくことで、NORによるNO還元反応の動画撮影を目指す。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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https://www.riken.jp/press/2023/20230111_2/index.html