研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
22H04777
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松本 理器 神戸大学, 医学研究科, 教授 (00378754)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | コネクトーム / 皮質皮質間誘発電位 / てんかん外科 / 高次運動 / 運動前野 / コネクトミクス / TVGL |
研究開始時の研究の概要 |
運動関連領域を外科切除する場合に高次運動障害が残存するか回復するかを術前に予測するのは困難であり、脳領域だけでなく領域間の結合も含めたネットワークの理解が不可欠である。本研究ではこれまで我々が作成してきた皮質脳波コネクトームのデータベースを用いて、脳切除前後のネットワークの構造上の変化を同定する。術前評価のために前頭葉・頭頂葉に頭蓋内電極を慢性留置したてんかん外科患者で本研究に同意を得られた方で、データベース化している25症例に前方視的に動員する患者を加え解析を行う。臨床的必要性から外科切除する場合のコネクトームの変化と運動障害の出現、回復から超適応に関与する潜在回路を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本新学術領域においては運動機能の適応メカニズムの解明のため、前頭前野からのtop down、頭頂葉からのbottom upの情報を統合する運動前野のネットワーク的理解が必要と考え、高頻度皮質電気刺激や皮質切除術などの介入に対するネットワークレベルの超適応メカニズムの解明を目指している。 2022年度は後方視および一部前方視的に蓄積した皮質・皮質間誘発電位(CCEP)データから、ネットワークレベルの超適応メカニズムの解明に必須となる皮質脳波コネクトームの作成を網羅的な低頻度電気刺激による因果的結合解析から進めた。電気生理的(CCEP)コネクトーム作成から、CCEPの分布と高頻度皮質電気刺激時に出現するGo/No-Go課題のパフォーマンスの関係、CCEPの因果的結合性とHuman Connectome Project (HCP) データベースの安静時機能的結合性の関連について研究を進めた。また領域内共同研究として、B班と共同でTime-Varying Graphical Lasso (TVGL)を用いて頭皮上、頭蓋内脳波記録の解析を進めた。 CCEPの手法(effective connectivity)を用いて、内側頭頂葉内での結合性の差異を示し、楔前部前方では運動前野との結合、楔前部後方では後頭葉との結合が多く、後部帯状回は内側前頭葉との結合が強いことを明らかにした。これらの部位がそれぞれ運動、視覚機能に異なった様式で関与していることが示唆された(Togo et al. Neuroimage. 2022)。また生物、非生物における視覚情報の皮質間での処理様式を明らかにした。具体的には、生物を見るときは非生物を見るときよりも、側頭葉底面後方領域内での情報のやり取りが視覚刺激呈示後250msあたりで大きいことを示した(Usami et al. Cereb Cortex. 2022).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本公募研究では、CCEP計測による電気生理学的コネクトームの作成を個人脳・標準脳で行い、高頻度皮質電気刺激とCCEPの分布の関連、fMRIによる機能的結合性との相関、てんかん病態による変容について解析を推進した。 Go/No-Go課題中に事象関連電位(ERP)を計測し、No-Go関連ERPを同定した。No-Go ERPが記録された皮質領域(No-Goネットワーク)にHFECSで介入し、No-Goタスクのパフォーマンスを検討した。No-Go ERPの分布と高頻度刺激介入をした部位の低頻度刺激によるCCEP分布を比較検討した。 No-Go ERP陽性の電極(No-Goネットワーク)の内、CCEPが誘発される電極の比率が高いほど、HFECS介入でNo-Goタスクのパフォーマンスが低下していた。HFECSは脳機能局在を同定する手法であるが、刺激部位と電気的に結合する領域を含めて、ネットワークに影響を及ぼしている可能性が示唆されており、現在論文準備中である。その他にはCCEPによる因果的結合性とHCPデータベースにおける機能的結合性の比較を行い、CCEPのN2電位と機能的結合性の相関が強いことを示した。またてんかんを有する脳におけるてんかん原性と脳ネットワークの変容の関連はてんかん原性が強い部分ではネットワークの変容を認めるが、てんかん原性が弱い部分においてはネットワークの変容は少ないことを示しておりこちらも論文準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はCCEP計測による電気生理学的コネクトームの作成を個人脳で行い、高頻度皮質電気刺激とCCEPの分布の関連、fMRIによる機能的結合性との相関、てんかん病態による変容について解析を進めた。B班の近藤班、南部班と共に睡眠時の頭皮上脳波、到達把握運動時の頭蓋内脳波にTVGLの手法を適応して、睡眠ステージごとや到達把握運動時の脳内ネットワーク解析を行っている。今後は解析方法のブラッシュアップ、症例を増やしてネットワークの観点からの睡眠ステージや到達把握運動が識別可能か、研究を進めていく。 また網羅的電気生理的コネクトームのデータベースを用いたシミュレーションから、個々の患者での脳切除前後のネットワークの構造上の変化、超適応による回復の予測を予定している。本研究で作成する電気生理的コネクトームは、理論班との共同研究によるネットワーク解析手法や超適応機構の数理モデル構築に貢献できる。臨床システム神経科学の観点からの知見は、工学的知見によるモデル構築・検証やリハビリ介入によるネットワークの変容の重要な参照データとして「超適応」メカニズムの体系化へ貢献が期待される。
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