研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
22H04816
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
堀谷 正樹 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80532134)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | 金属酵素 / 電子常磁性共鳴 / ケージド化合物 / アニーリング / 反応中間体 / 電子電子二重共鳴法 / スピンラベル |
研究開始時の研究の概要 |
電子常磁性共鳴法(EPR法)は、ラジカルや遷移金属を選択的に検出する磁気共鳴法のひとつである。これまでEPR法による金属タンパク質・金属酵素における研究では、他の分光法では得られない活性中心の金属イオン周辺の微細構造を解き明かし、さらに反応中間体を捕捉する手段である高速混合凍結法(RFQ)と組み合わせることで、さまざまな金属酵素の反応機構を解明してきた。本研究では、新規反応中間体捕捉法の開発とEPR-紫外可視吸収分光同時計測系の開発を行う。これにより、これまで反応機構が不明であった呼吸酵素関連酵素の反応機構の解明とABCトランスポーターの膜輸送機構の解明を行う。
|
研究実績の概要 |
これまで高速混合凍結法(RFQ)とEPR法によって、反応中間体捕捉・構造解析が行われ、様々な金属酵素の反応機構が解明されてきた。ところが、RFQはその特性上短寿命反応中間体が捕捉できないことなどのデメリットがあった。これに対して本年度は光解離性ケージド化合物を用いた新たな反応中間体捕捉法の開発に挑戦し、捕捉した中間体をEPR法によって構造解析することを目的とした。 本年度はケージド化合物の中で様々な酵素・タンパク質の基質であるケージドATPを利用した。ケージドATPは従来溶液で利用されてきており、極低温下での利用実績は無い。そこでケージドATPをEPR試料管に詰め、液体窒素下で凍結した。この試料に対して光照射することで凍結下でATPが光解離するか検証した。検証結果、30分以上の光照射によって、ほぼ100%のATPが光解離することが明らかになった。次に凍結下APTがアニーリングによってタンパク質内を拡散し、構造変化を起こすかの検証実験を行った。この検証実験にはグルコキナーゼを利用した。グルコキナーゼはグルコース、ATPからグルコース6リン酸、ADPを産出する化学反応を触媒する酵素であり、スモールドメイン、ラージドメインおよびそれらを連結するヒンジ領域から成る。これまでのX線結晶構造解析から、基質非結合型では両ドメインが開いたOPEN構造、基質結合型では閉じたCLOSED構造へ変化することが知られている。つまり、ATPが結合することでCLOSEDへ構造変化を起こす酵素である。本実験ではラージ・スモール両ドメインにスピンラベル試薬を付加させ、ラベル間距離の測定から構造変化を検出した。ラベル化酵素、ケージドATPを混合し、光照射後、アニーリングによって240Kまで試料温度を段階的に昇温したところ、光解離したATPが酵素に結合し、構造変化を起こしていることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたケージドATPが極低温下でもATPを光解離させられることを実験的に確かめることに成功した。さらにATPを基質として構造変化を起こすグルコキナーゼにスピンラベル試薬を導入することにも成功した。続いてラベル化酵素、ケージドATPを混合・凍結し、極低温下で光照射したサンプルとそこからアニーリングしたサンプルのラベル間距離を電子電子二重共鳴法により測定したところ、凍結下で光解離したATPが拡散し、タンパク質と結合することで構造変化を引き起こしていることが確認できた。 今後はよりSN比の高い電子電子二重共鳴法スペクトルを得られる条件を精査し、他のタンパク質や酵素へケージド基質を利用した反応機構解析に挑戦する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度、凍結下でもアニーリングによって光解離したATPが拡散し、タンパク質に結合することが確かめられた。しかし、得られた電子電子二重共鳴法スペクトルのSN比が悪いものであったことから、nmオーダーでの構造変化を検出することが出来なかった。今後はnmもしくはpmオーダーで構造変化を検出できる電子電子二重共鳴法の取得条件を精査するとともに、他のATPを基質とするタンパク質や酵素の動作機構、反応機構の解析を行う。 また他のケージド基質を利用し、本研究手法がより汎用性の高い手法へと昇華させる。
|