研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
22H04836
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
複合領域
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茅 元司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00422098)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | ミオシン / 分子間協同性 / 相互情報量 / 情報理論 / 協同性 |
研究開始時の研究の概要 |
骨格筋や心臓収縮の原動力である骨格筋,心筋ミオシンは300分子程度が重合したフィラメントを形成し,アクチンと相互作用して収縮力を生み出している.近年の研究から,こうしたミオシン1分子特性から想像できない自律的な機能が,ミオシン分子集団において発動することが判明してきた.そこで本研究では,情報理論の概念を応用し,ミオシン1分子から多分子集合体における情報伝達能力を評価し,分子が集合したシステムにおいて発動する自律機能を,こうした新しい概念を用いて理解する.
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研究実績の概要 |
本研究では,ミオシン1分子から多分子集合体における分子間の協同的な力発生を評価する目的として,ミオシン分子を情報伝達システムとして捉え,ATP濃度変化や負荷を入力刺激とし,その出力であるアクチンの滑り速度の変化から相互情報量を計算して,分子数の変化に対する情報伝達能力を考察する.しかし,分子レベルでの相互情報量の計算は前例がないため,まずは相互情報量を評価できる実験方法,データ解析法などを検証してきた.最初の実験として,ガラス基盤に固定したミオシンフィラメント(多分子集合体)上を滑っていくアクチンフィラメントの速度を低-高ATP濃度において計測して,ATP濃度変化に対するアクチン速度分布から相互情報量を計測した.その結果,アクチンと相互作用するミオシン分子が20分子程度のフィラメントの場合,情報伝達効率は60%程度であり,一方10分子程度まで下げた場合は50%程度まで低下する結果を得た. しかし,この計測ではミオシンフィラメント毎の相互情報量を計算することができず,複数のフィラメントの平均値としての評価しかできない.そこで,個々のフィラメントの相互情報量を計算するため,光ピンセットを用いてミオシンフィラメントの力発生を計測する実験を実施した.この実験では,ビーズ変位からミオシンフィラメントに作用する負荷を推定できるため,負荷を入力,アクチン速度を出力として,各フィラメント毎に相互情報量を算出した.また相互情報量の計算では,確率分布計算に必要なデータのクラス分けの細かさによって相互情報量が変わってしまう問題が判明したため,バイアスのかからないデータ分類が可能なAdaptive Partitioning法に基づく相互情報量の計算を導入した.こうした実験方法,解析方法の開発に大幅な時間を費やしてきたが,分子レベルでの相互情報量の計算を可能にする有用な実験方法や解析方法が定まった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子レベルでの相互情報量の評価は前例がなく,実験方法や解析手法を手法を確立することが初年度の最大の課題であった.特に,光ピンセットの計測から負荷を入力刺激として,アクチンの滑り速度を出力として捉えることで,個々のフィラメントの相互情報量を評価することができたのは大きな進捗である.また,解析を進める中で,相互情報量は,入出力関係に基づいて決まる確率分布を算出する際に必要なデータサンプリング幅に依存して変わることが判明した.そこで,これにとって変わる方法として,Adaptive Partitioning法と呼ばれる手法で,データ密度が高いところと低いところにおけるサンプリング幅をカイ自乗検定に基づいて一意に決める手法を導入し,サンプリング幅による相互情報量の偏りを解消できた.こうした実験方法,解析手法の確立により,次年度において分子レベルでの相互情報量評価に向けて,実験から解析へのプロセスを飛躍的に早める体制ができたと実感しており,初年度は順調であったと評価している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,実験を積極的に推し進めていく予定である.まず,相互作用分子数が20分子程度のフィラメントにおいて,低-高ATP濃度において光ピンセットを用いた実験を実施し(現在,既に進行中),各ATP濃度におけるミオシンフィラメントの相互情報量を計算し,ATP濃度の違いにおける変化を検証する.また,相互作用分子数が半分の10分子程度のフィラメントにおいても同様の実験から相互情報量を計算して,相互作用分子数の違いによる情報伝達能力の変化を検証する.また,同ATP濃度においてアクチン速度を,低負荷,中負荷,高負荷の範囲に分けて相互情報量を計算し,相互情報量の負荷依存性を検証する.こうした一連の解析から,分子間の協同性の変化を情報伝達能力という観点から評価できるか?,また負荷依存的に協同性は変化すると考えられてきたが,情報理論的な観点からもそのような現象として捉えられるか?,検討してく. 上記の実験が順調に上半期で終わった場合は,ミオシンフィラメン内のミオシン1分子の相互情報量評価の実験を進める.この実験では,ビオチン化軽鎖を持つミオシンを天然ミオシンと混合してフィラメント化させる.ビオチン化ミオシンにはアビジン化金ナノ粒子を標識し,その散乱像を高速カメラで撮影して,ミオシン1分子の動態を捉える.同時に光ピンセットを用いてミオシンフィラメントに作用する負荷をモニターしながら,ミオシン1分子の結合時間が負荷に対してどのように変化するか評価し,このデータを元に相互情報量を計算する.この計測に成功した場合,ミオシン1分子から分子が集合したフィラメントにおける報伝達能力がどのように変化していくのか評価できるため,1分子から多分子集合体への過程における分子間協同性の変化を情報という観点から評価していく.
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