研究領域 | 「当事者化」人間行動科学:相互作用する個体脳と世界の法則性と物語性の理解 |
研究課題/領域番号 |
22H05219
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研究種目 |
学術変革領域研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
学術変革領域研究区分(Ⅰ)
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研究機関 | 静岡理工科大学 (2023) 高知工科大学 (2022) |
研究代表者 |
渡邊 言也 静岡理工科大学, 情報学部, 准教授 (90637133)
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研究期間 (年度) |
2022-06-16 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | ストレス / レジリエンス / 学習モデル / 強化学習 / 個人差 / fMRI |
研究開始時の研究の概要 |
ストレスは人々が世界と交わるあらゆる場面で蓄積される。例えば、仕事場面では「顧客からの苦情電話」という出来事がストレスになるだけでなく、「上司に叱られるかも」という予測や、「思ったより販売が伸びない」という結果と予測の誤差もストレスとなる。そして人々はストレス状態を抜け出すために試行錯誤を行なう。 人々と世界の相互作用を「ストレス最小化の適応学習」の枠組みで捉えたとき、ストレス適応性の個人差は、学習過程における如何なる違いによって説明されるのだろうか。本研究では、人と世界の相互作用の特徴を、ストレス環境下の学習の個人差として捉え、強化学習モデルにて記述し、その差に一致した神経基盤を解明する。
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研究実績の概要 |
日々の生活にて経験するストレスは、時には心身に大きなダメージを与えるが、多くの人々は、時間と共にストレス環境適応し、回復することができる。このようなストレス環境に対する適応能力を「心的レジリエンス(Psychological Resilience)」という。ここで重要な点は、多くの人々はストレスに対して速やかに回復し、元の生活に復帰できる一方で、一部にはストレス環境に適応することに苦戦し、長期的に苦悩する人々も存在するということである。本研究の目的は、レジリエンスの個人差はストレスに対する「脳」と「身体」、そして「行動反応」の個人差に起因していると考え、科学的(客観的)にレジリエンスの個人差を脳活動・生理反応・行動特徴の違いとして再定義することである。レジリエンスの個人差の客観化は、ストレス適応問題に直面している当事者へ、マジョリティ他者と個人の間のアンマッチへの気づきを与え、その客観的誤差情報に基づいた、一人一人の脳と身体状態や行動特性に適したストレス対処法を模索するきっかけとなりうる。 2022年度は、実験環境の構築および、実際の実験課題プログラミングの作成、また、強化学習モデルを用いた解析プログラミングを作成し、予備的な行動実験を行なった。加えて、研究代表者の所属の異動に伴い、新たに、研究実験が実施可能な環境の構築を全力で行った。2023年5月現在、「実験環境の構築(設備の購入とセットアップ)」「大学内で被験者を集めるシステム構築」「謝金支払いシステム構築」「実験倫理的な手続き」をほぼ終えることができた。 本研究に関連した学会発表と領域会議でのポスター発表を全部で3件行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は研究代表者が高知工科大学助教から静岡理工科大学准教授として異動し、独立PIとして、新たな研究室を設立したことに伴い、一時的な研究の中断と研究環境の構築が必要になった。特に、2022年11月から2023年3月の半年間は、異動に伴う「0からの研究環境の構築」や、新たな環境での「倫理審査手続きの必要性」によって、新たなデータを取得することが不可能となってしまった。そのため、現在までの進捗状況は、やや遅れている。本報告書を作成している2023年5月現在、「実験環境の構築」「大学内で被験者を集めるシステム構築」「謝金支払いシステム構築」「実験倫理的な手続き」をほぼ終えることができた。そのため、今後は本研究の内容に集中することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで準備してきた新たな研究環境を稼働させ、①新たな環境でのストレスパーソナリティ分布の把握と、②ストレス学習実験を実施する。実験は研究責任者が赴任した、静岡理工科大学の学生に被験者として参加してもらう。加えて、新たな研究環境において②「唾液成分解析システムの構築」と③「急性ストレス負荷法の再検討」も行なう。 ①はこれまで4年間調査してきた高知工科大の学生の慢性的ストレスの実体に基づき研究を実施してきたが、新たな静岡理工科大学での実態は未知のため、事前の調査が必要となった。 ②「学習実験」では、個人の集中力やワーキングメモリーの容量など、いわゆる学力の違いによって、実験の難易度を設定し見直す必要がある。そのため、2022年度の途中で中断されてしまった、実験課題の難易度の再設定を行ない、その後にメインのストレス学習実験を行なう。 ③は、前任の大学では研究所の一部としてあった、抗体検査システム(ELISA)が使用できなくなったため、研究代表者本人の責任にてシステムを構築し、本研究で使用する。そのための予算の一部の本研究費からも捻出させていただきたい。 ④は、本研究では、社会の中のストレスを模した実験系とするために、TSST(Trier social stress test:社会的ストレス負荷)を用いて、被験者への軽微なストレス負荷を検討している。しかしながら、この手法は、大変な人手(実験者以外に最低2名の中年役者×実験回数)が必要である。前任の大学は、多くのスタッフがいたため、この人員を確保できたが、研究代表者が赴任した大学では、代表者一人しかいないため、また、ストレス負荷時の空間が確保できないため、不可能となってしまった。そのため、社会的ストレス負荷法の使用を再検討する。現状のアイディアでは、TSSTに近似した、少ないコストで実現可能な社会的ストレス負荷法を模索中である。
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